僕のおねえさん

□63.
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この感じ…、前にも、
近藤さんちで会った時と同じ…。
原田先生の瞳に吸い込まれる感覚…。

周囲の雑音さえ感じない、視界が原田先生の瞳しか映さなくなったその時、原田先生の大きな手が私の腰をグッと引き寄せ、そして…






「原田…?」



原田先生の向こう側から聞こえた声にハッとして、漸く現実の時間が動き出したような感覚に体が反射的に動き出す。

バッと目の前の原田先生の胸を押しやって抱き寄せられる腕から離れると、原田先生の向こう側に驚いた表情で立っている土方さんが見えた。



「……名前…?」

「っ!?」



土方さんに見られた…。
離れた距離でもわかる位に目を丸くした土方さんの表情が目に焼き付いて、なんだかとんでもないところを見られてしまったと、居ても立っても居られない気持ちがこみ上げてきて、気が付けばその場を勢い良く走り出していた。



「あっ!お、おいっ!」



原田先生の声が聞こえたけれど、振り返らず、一目散に家を目指して脇目も振らずにひたすらに走り続けた。







「たっ…、ただいまっ…」



息を切らして家の中に飛び込む。
忘れかけてたあの男の子たちのいやらしく歪んだ笑顔と突然真正面から真っ直ぐに見つめられる熱い眼差しがずっと後ろから追いかけてくるような、そんな恐怖から逃げ出すように、

頭の中のぐちゃぐちゃを振り払うつもりでがむしゃらに全力で走ってきたから思うように声が出なくて苦しい。


なんだったんだろう…。
どうして突然原田先生はあんな風に私を抱き寄せたの?
あのまま土方さんが現れなかったら私…、どうなってた…?


……土方さん……、どう思った…?
私と原田先生の事……。



っ…!


急激に込み上がってくる吐き気にむせ返る。
どうしてあんな風になっちゃったんだろう。どうしてあんなところ見られたんだろう。


ぐるぐる巡るどうしてが吐き気を増長させる。
気持ち悪い…、お水…、


お店を出た時は程よい酔い加減だったのに、ビールでたぷたぷの胃の中が走ったせいでもうサイアク。
壁に手をついて唸りながらキッチンに入るといつものようにバラエティー番組のついたテレビの前でソファーに座る総ちゃんの後ろ姿があった。



「あ、総ちゃん…、ただいま…」



まだ少し動揺してる不安と気持ち悪いのをなんとか堪えて声を掛ける。
自分の好きで飲みに行ったのに悪酔いして帰って来たなんて思われたくなくて、何事もなかったように笑顔を取り繕ってみたけれど…、



「………、おかえり。早かったね」



総ちゃんの声はとても低くて冷たくて、こっちを振り向いてもくれなくて、
夕方電話した時もそうだったけど、やっぱりどこか不機嫌で私を突き放すような…、そんな感じ…。


私、何かしちゃったのかな…。

長い間離れて暮らしていたせいで姉弟喧嘩なんてした覚えもなくて、こんな時どうしたらいいのかわからない。
とりあえず不機嫌な総ちゃんの事も気にかかるけれど、胃の中の不快感をどうにかしようと冷蔵庫から水を取り出しコップに注いで一気に飲み干した。
一息ついてコップを流しに置こうとして気付く。



「…総ちゃん、晩御飯は?」



流しには使った食器の形跡もなく、何かを作ったりお弁当なんかの出来合いのものを買って食べた様子もない。

キッチンから出て総ちゃんの後ろに立つとローテーブルの上には食べかけのスナック菓子と炭酸飲料のペットボトル、それから食べ終わった菓子パンの袋やパックジュースの空が乱雑に散らかっていた。



「…総ちゃん…、晩御飯、食べなかったの…?」



ズキズキと痛み出したこめかみを抑えて訊ねるけれど、総ちゃんはテレビに視線を向けたまま、私の声なんて聞こえていないかのように全く返事をしてくれない。



「総ちゃん…?」



ねぇ、どうして怒ってるの?
私、何かしたの?


聞きたいけれど、総ちゃんの作り出す空気の壁があまりにも冷たくて重たくて、とてもじゃないけどこれ以上声を掛けることなんてできなかった。
私がどうすることもできずに押し黙ってしまうと、総ちゃんは突然すくっとソファーから立ち上がって廊下へと出て行こうとする。



「そっ……、」

「名前ちゃん、すごくお酒臭いよ。気分悪くなる」

「っ…!?」



鋭く冷めた目つきで一瞥すると、そのままバタンと廊下の扉を閉めて行ってしまった。
今まで見たこともない蔑むような視線を向けられ、呆然とするよりも鳩尾あたりを鋭い刃物でえぐられたような感覚が重苦しくてしばらくその場から動くことすらできなかった…。
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