僕のおねえさん

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☆★僕の知らない★☆QLOOKアクセス解析





「何してるの?」



お昼休みも終わって予鈴が鳴ったから真面目なはじめ君に連れられて午後の体育の授業の準備に連れられて来てみたら…。

そこにいた、肩を寄せ合って何やら覗き込むようにしている二人の背中に声をかければ、僕の声に反応してビクッ!と大きく飛び跳ねるように振り返る二人。



「そっっっ!!?総司!!」

「っっっ!!?」



二人は真ん丸く見開いた大きな目で僕を見上げ、それはもう真っ青なほど青ざめた額から汗をたらりと流すほどの驚き様だった。



「何そんなに驚いてるのさ。二人でこそこそ…、見られちゃまずいことでもしてるの?」



二人が覗き込んでいたその先へと視線を向けてみると、そこには…。




「…………、なにあれ……。あの人誰?」

「………。」



急激に冷めた低音へと化した僕の声色に目の前の二人はさらに真っ青になって震え上がり、お互いの手を握り合って怯えている。



「はぁ…、総司。あんたはまた…、いなくなったと思えば、こんなところで一体何をしているのだ。次の授業の準備を手伝ってもらうために連れてきたというのに…、?、平助に雪村…、あんたたちまで…、こんな所で何を…?もうすぐ本鈴が…」



そこへ武道場から僕の姿を見つけたはじめ君がため息を付いて僕を連れ戻しに来たけれど、僕の前にいる平助君と千鶴ちゃんを見つけ、その二人のただならぬ様子から、更に僕の視線を辿って体育館裏を見やって目を瞠る。



「はっ!あれは…!?」

「ちょ、はじめ君声でかいって!」



普段冷静なはじめ君が驚愕の声を上げるけれど、その声はすぐに平助君の内緒話のような叫びによって掻き消され勢い良く口を塞がれる。



「大声出しちゃダメだってはじめ君!」

「すっ、すまない…」



はじめ君の口から手を離して自分の口元で人差し指を立ててしーーー!っと白い歯を並べて小声で注意をすると、チラッと肩越しに確認して気付かれていないことにプシューっとため息をつく。



「ぷしゅ〜、じゃないでしょ平助君。あれ、一体どういうこと?なんで僕のおねえさんがよりにもよって土方さんとあんなところで二人でいるわけ?そもそもあんなデレデレ目尻下げたりとかして誰なのあれ。あれが土方さんだなんて、普段の面影全然ないじゃない。なにあれ、ホントあり得ないんですけど。あんな目で名前ちゃんのことニヤニヤ舐め回すように見るなんて許せない。視姦でしょこれ。今すぐ離さなくちゃ…」

「しっ…!?」

「ままま待て待て、待て待て総司!」



何も言えずに依然真っ青な顔色のままの千鶴ちゃんの横を横切ろうと足を踏み出した僕の前に素早い動きで平助君が立ちはだかり、グイグイと真正面から肩を押さえられる。
さっきは僕の目の前から背後に現れたはじめ君の口を押さえに移動して、今度はそこから僕の目の前に戻ってきて…。人ってこんな瞬間移動みたいなことできるんだ。

ていうか。



「なに平助君。ジャマしないでよね」



そのまま進もうとする僕を、両腕を突っ張って阻止する平助君が顔を上げる。



「ちょ、いいから先ずは落ち着けってぇの!俺もさ、いつも土方先生、オレら生徒には『店が来たくれぇで浮かれんじゃねぇ!』とか言ってるくせにこんなとこに総司のねぇちゃん土方先生が連れ込んだとかだったらちょっと一言物申してやりたいとは思ったんだけどさ、千鶴が言うにはちょっと違うんだよな…」



そう言って平助君が体育館の壁に手をついて身を屈めていた千鶴ちゃんへ視線を向けると、ビクッと肩を跳ね上げ目を大きく見開いて僕を怯えた眼差しで見上げる。



「違うって…、何が?」



その怯えた瞳をジッと見据えて問いかければ、「ひっ」っと小さく息を引きつらせた悲鳴を上げて両手をギュッと喉元の前で握りしめながら、追い詰められたネズミのように目を固く閉じて精一杯の力を振り絞るように意思を伝える。
但し、蚊の鳴くような本当にか細い声だけど。



「わっ…、私見たんです!名前さんがものすごく楽しそうに笑って土方先生の手を引いて走ってくるところを!だ…、だから…、土方先生が無理やり連れてきたとかそう言うんじゃ……、」

「へぇぇ〜、それじゃあまるで名前ちゃんが男好きで人目を忍んで学校の先生に手を出してるみたいって言ってるように聞こえるけど?ねぇ、どうなの?」

「っっ!!?ちっ!ちがっ!!そんな私っ!」

「ちょーちょちょっと!総司落ち着けって!千鶴はなんも悪くねぇだろ!」



壁を背後になんだか土方さんの肩を持つような発言をする千鶴ちゃんに覆いかぶさるような影を作って高い位置から見下ろす僕にまたもや平助君が待ったをかける。



「名前さんが土方先生の手を引っ張って来たかどうかはオレは見てねぇからわかんねぇけどさぁ、でもあれ見たらどっちがどうとかそういう問題じゃなくね?」



言いながら平助君は体育館裏の奥へと大きな瞳を向けて、それに倣って僕も視線を向ける。


身振り手振りでなんだか見てて引くほどイキイキしてる土方さんは別として、その向こう側でそんな土方さんを見つめる名前ちゃんの瞳はキラキラと綺麗に輝いていて、本当に土方さんの話を楽しそうに聞いていて、
そんな名前ちゃんの笑顔は最高に可愛らしくて女の子らしくて…。


そんな名前ちゃんの姿を見たら、なんだか急激に冷え切っていた気持ちが何処かへ行ってしまったのかなんなのか…、
まるで洞窟の暗闇の中で見つけた小さな花に一筋の光が射し込んで、そこから一気にほんわかと暖かさが広がるように…、
僕の尖った気持ちを溶かしていった。
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