僕のおねえさん

□60.
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胸を撫で下ろし、安心しきったように目を細めて微笑むこいつの笑顔…。

俺の家に連れ込んだあの日、帰り間際に玄関で見たあの時と同じかお…、

いつまでたっても瞼の裏に焼き付いて離れない、あの顔を再び目の当たりにして俺は息を飲む。

印象に残る顔だとか、忘れられない顔だとか。
そういう類とは違う、ただ言葉にすることなんてできねぇ何かが俺の時を止め、こいつの笑顔をまるで一枚の写真か何かのようにその一瞬を脳裏に刻み込む。



「ぁ…、それじゃぁ…、私はこれで…」



体育館の向こう側で鳴っていた予鈴のチャイムが鳴り終わると同時に立ち上がりその場から去って行こうとする手を思わず掴んでいた。



「っ!?」



掴んだ俺の手に視線を向け、すぐに丸く見開いた瞳で俺を見る。
その動揺に揺れる翡翠色が俺の視線と交わり見つめ合う。
お互い息を止めているかのように何もかもが止まったような瞬間…。



完全に参った…。



繋がった俺の手とこいつの手、交わる視線、それだけでこいつと出会ってからほんの数週間の関わりの中で感じた不思議な感覚…、
翡翠の瞳に引き込まれる感覚が何だったのかを自覚する。


俺は…、この輝きに吸い込まれた時から…、
いや、もっと、その前からこいつに特別な感情を抱いていたのかも知れない…。
あの夜…。
月の光のもとで幻想的な世界に導かれたあの時から…。






まだ自覚するには早すぎるその気持ちをどうにか抑えようと、とりあえず掴んだ手を離し、視線を足元に落とす。
そうでもしないと俺は、気付いてしまった感情を抑えることができなくなる。

掴んだ手を解放してはみたが、このまま帰したくないという欲求は抑えられそうもない。


少しの時間でいい…。
こいつのそばで緩やかな時間を過ごしたい…。



「まだ…、いいだろ…?」



もう一度こいつの手を取り、吸い込まれてもいい…、
俺を落とした翡翠の輝きをまっすぐに見上げて呟く。

その輝きを見つめ、触れ合っているだけで今まで感じたこともない、思ったことすらない感情が沸き起こる。

ただ、そばに居たいと。
単に男の欲望を満たすだけの存在として置いときたいんじゃねぇ。

自分の感情なのに上手く表現できねぇもどかしさに訳がわからなくなるが、一つだけハッキリと分かることは、

こいつに触れただけで俺は まるで暖かい日差しの中、日頃感じることのない穏やかな時間を過ごしているような心地よい暖かさを感じてしまうという事。


保健室で眠るこいつの頬を思わず撫でてしまった俺は、既にこの感情に気付いていたのかも知れねぇな…。
俺の手にまるで猫のように擦り寄ってきたあの笑顔が俺に暖かな気持ちを芽生えさせた…。

こいつは無意識だったかもしれねぇが、俺の手を掴んで猫の群れから走り出したあの行動にしても、どれだけこの俺の心臓が高鳴った事か…。


気付いてしまった以上、もうこの気持ちを止めるなんて事はできねぇ。


俺の心を穏やかに、
そして心地よい胸の高鳴りを覚えさせる唯一の存在。
こいつの笑顔を俺のそばに。

掴んだ小さな手をキュッと握りしめた。
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