僕のおねえさん

□59.
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「いらっしゃいませんね…」



島田さんがそう呟いたのはお昼休みが始まってから30分程経過した頃。

生徒たちへのお弁当の引き渡しもスムーズに終わり、そこから私たちもお昼休憩に入ってご飯を食べる。
休憩自体決まった時間を取るわけじゃないけれど、ご飯を食べ終えたら特にゆっくりすることもなくまた営業を再開する。
ここからの時間帯はほぼ一般のお客様がゆっくりご来店することが多いから午前中と比べたら本当にまったりとした感じなんだけど。



「…きっとお忙しいんですよ」



今朝、慌てた様子で「後で来る」って言って走り去っていった土方さんの後ろ姿が脳内を占拠する。
さっきまで島田さんに変に茶化されたりしてたからか、土方さんがいつ現れるのか、密かにドキドキしてたりもしたんだけど…。
考えてみればこんな風にドキドキするなんて思い違いもいいとこだよね。
勝手に盛り上がって勝手に勘違いするような事…。
ほんと島田さんたら夢見る夢子ちゃんなんだから。

きっともう、今日は土方さんは来ないだろうし、本は…、

誰のかはっきりしないけれど、時間がある時にもう一度土方さんに確認を取ってみよう。
それで、土方さんのじゃないって言われたら山南さんのところに持って行けばいいよね。
誰かの落し物だったりとかしたら、きっとなくした人も困ってるだろうし…。
早めに土方さんに確認してもらえるといいんだけどなぁ…。

はぁっと膝の上で両手に持った小さな本を見つめ小さく息を吐いて項垂れると、コーヒーのいい香りが漂ってきて、それから肩をトントンと叩かれる。



「名前さん、そんなに落ち込まないで…。今日は偶々時間が取れなかっただけだと思いますよ?」



島田さんたら…。すっかり待ち人が来ないことに落ち込んでいるんだと勘違いして励ましてくれてる…。
そんなんじゃないんだけどなー。



「よかったら外の空気でも吸ってゆっくりしてきてください。ここからの時間帯ならそんなに混み合うこともありませんし、私一人でもなんとかできますから。」



そう言ってコーヒーを差し出されワゴンから追い出されるように外に出された。



「え、あのでも島田さん…」

「気分転換してください。スッキリした笑顔で戻ってこないと名前さんのファンのお客様に申し訳ないですよ?」

「あ……、」

「行ってらっしゃい、ごゆっくり」



にっこりと柔らかく微笑みを残した島田さんによって後部扉は閉められてしまった。

片手にコーヒー、もう片方の手に小さな本を持ち、ポツンと佇む私。



……………、


辛気臭かったのかなぁ…。



ガクッと肩を落としてはぁあ〜っと今度は大きく肺の中の空気を吐き出した。
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