僕のおねえさん
□57.
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☆★背中を押されて☆★
翌日も昨日と同じく朝の引換券販売分の売り上げを持ってきてくれた土方さん。
昨日もそうだったけど、基本的に一時間目の授業がない日は土方さんが売上金を持って来てくれるらしい。
らしいというのは、私が直接聞いた話じゃないからで、売上金を受け取った島田さんからそう聞かされた。
一時間目の授業が始まり校内が落ち着く頃、私たちのワゴンが到着する。
土方さんも粗方のデスクワークが落ち着く頃だからとそのタイミングで来るらしい。
そうするといつもテラス席の準備をする島田さんに手渡すことになるから、車内で準備中の私は土方さんが来たと気付くのはいつも島田さんの元気な挨拶の声が聞こえた時で、顔を覗かせると既に用を済ませて校舎へ戻っていく後ろ姿が見えるばかり…。
そして今日は土方さんが来ない代わりに原田先生と永倉さんがペアで持って来てくれて、島田さんに売上金を渡した後、朝から元気で爽やかな挨拶をしてくれた。
「よぉお名前ちゃん!今日もいい天気だな!」
「あ、永倉さん!おはようございます!」
振り向くとカウンターに両腕を乗せてもたれかかり片手を上げながらニッカリ笑顔の永倉さんがいて、その後方から島田さんに売上金の入った金庫を渡し終えた原田さんがこちらに向かって歩いてきていた。
「よぉ、名前、おはよーさん」
「原田先生も、おはようございます!」
二人横並びに揃ったカウンターに向き合って立つと若干見上げられる形になり、二人から向けられる笑顔に挨拶を返すと、二人ともが同じように目をパチクリさせて瞬きをして仲良く顔を見合わせる。
そんな息の合った一連の動作をすると、「いやぁ〜、朝からいいもん拝めたな!」と突然原田さんの肩に腕を回して肩を組む永倉さん。
いきなり重そうな腕を乗せられてもイヤな顔ひとつしないで「だな」と答える原田さんの笑顔に首を傾げてみせるとふっと軽く笑われる。
「朝からこんな天使の微笑みが拝めるなら毎日売上金届けて、その笑顔独占してぇなっ!」
「ははっ!同感。俺だって毎朝拝みに来たいぜ。」
「えっ、えぇっ!?」
「けど俺らがこうして来れるのは土方さんが授業の時だけだもんな…」
「まぁ〜、俺はともかくとして、新八の授業は一限目多いからな」
「くぅう〜!なんで俺ァ数学教師になんかになっちまったんだろォなぁ!授業数多すぎるっつーの!」
「ま、それは言ってもしゃーねぇだろ。土方さんが授業の時はこうして来ることができるだけでもありがたいと思っとかなきゃな」
「くそぅ…、土方さんが羨ましいぜ。こうして毎朝名前ちゃんに会えるなんてよ!」
「まーそう言うなって…。週に一度の俺らの楽しみって事でよ」
そう言ってパチっとウインクした視線を向けられ、目の前にキラッと星が瞬いたような残像に今度は私がパチクリする。
「あ…、あのでも土方さんは毎朝島田さんにあっちの方でお金渡すとすぐ戻って行かれるので…、私、いつもご挨拶しそびれちゃってるんです」
「きっとお忙しいんですよね」と
付け加えて苦笑いを浮かべて言うと、口を丸く開けてポカーンとした顔で私を見上げる永倉さんと、同じく丸い目をキョトンとさせた原田先生の表情に私まで何かおかしな事言っちゃったかな?と目を丸くする。
「え…、っと…?」
「なんだよ、俺ァてっきり名前ちゃんに会うために張り切って来てるのかと思ったぜ」
「え?」
「まぁ〜…、新八はともかくとして、女に興味のない土方さんはそんな下心あるわけねぇとは思っていたが…」
「???」
「それにしても挨拶も無しで戻ってくとは…、そりゃちょっとねぇよな〜」
「だな。そりゃちっとばかし大人気ねぇってなもんだ」
片眉を上げて納得いかないように呆れる永倉さんが胸を張って腰に手を当てると、原田さんも眉を寄せて腕を組む。
「あ!あのでも!きっとお忙しいから!わざわざ売上持って来ていただくだけでも恐縮なのにそんな、挨拶なんて!」
なんだか土方さんが悪く言われているようで慌ててそんな風に言ってしまう。
そんな私の様子に永倉さんが少し驚いたような顔をして見上げてきたけど、すぐに表情を戻して「いやでも、ここにこぉんな可愛子ちゃんがいるってのによぉ…、やっぱ俺には理解できねぇっ!」と頭を振る。
「ハハっ、ま、俺も理解不能だな。そんな言うほど毎朝忙しいって訳でもねぇし、挨拶するくらいどぉって事ねぇと思うんだがな」
「面識がないわけでもねぇんだし」と付け加えて永倉さんに同意見の原田さん。
「あの…、ホントに私、気にしてないのでいいんですよ?挨拶だって、本来なら私が出て行ってお礼と合わせてするべきですし…。明日からは私から挨拶してみますね」
「ん…?まぁー、そーだな。名前がそれでいいってんならいいが…」
「いやでも、そーなるとやっぱり俺たちよりも土方さんのが名前ちゃんとの接点ポイントが増えちまうって事でなんか悔しいぞ左之っ!」
「どっちだよお前はっ!」
目の前でどつき漫才のようなやり取りをする二人を視界にぼんやり映しながら、なんかよくわかんないけど、明日からは私から声をかけれるようにスタンバイしてみよう。と思う。