僕のおねえさん

□53.
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☆★打ち明ける女★☆QLOOKアクセス解析





保健室へと廊下を急ぐと、その扉は開け放たれたままで、そこの床だけ室内からの明かりが差し、廊下を照らしている。
まさか山南さんがそんな不始末をするとは考えられず、不審に思うと同時に聞こえる女の声に、俺の足は考えるよりも先に走り出していた。



「名前っ!」



カーテンの先に見た光景…。
ベッドに体を小さくして座った状態の総司の姉の肩に腕を回し抱きかかえる井上。

井上の両腕に抱え込まれる総司の姉の瞳はハッと大きく見開き俺を見上げ、その翡翠の瞳からはボロボロととめどなく涙が流れ白い頬を濡らす。

この二人にどんな面識があってどんな成り行きでこの状況に至ったかはわからねぇ。
だが目の前の女が泣いてる状況をそのままにしておくことなんてできるわけがねぇ!

事情も聞かずに井上を保健室から追い出し改めて戻ると、初めてそこで気付いたのは、女のシャツがはだけて左側の肩がむき出しの状態になっている事。



「お前っ、あいつに何かされたのか!?」



慌てて女の背中にかかるシャツをそのむき出しの肩に掛けると、青ざめた表情で堪えようにもとめどなく流れる涙をそのままに震える声で『井上のことなんか好きじゃない』と呟き、そのまま顔を掛け布団に埋めてしまった。

俺や山南さんが席を外してしまった間に一体何があったのか…。



「………、す…、好きじゃないって…、」



顔を掛け布団に埋め、くぐもった嗚咽を漏らしながら肩を震わせる様子にどうしていいのか…。
泣いてる女の対処の方法なんて、俺ぁ…、

原田なら上手いことどうにかするだろうが、泣かすことはあっても放置してそのまま置き去りにするようなことばかりしてきた俺に、泣いてる女の面倒なんてみれるのかよ…。

いつもの俺ならここで盛大なため息の一つや二つ吐き捨てて本人に空気読んでもらうところだが、今の俺にはそれができなかった。

さっきの島田と山南さんの話を聞いてしまっては、容易に泣き止めだとか、そんな言葉だけの無責任な慰めなんかじゃ、こいつの心を癒すことなんて出来やしねぇ…。

だが…、
目の前で体を小さくして肩を震わせる背中を見て…、
どうする事もできねぇが、俺の左手はどうしたらいいと戸惑う脳とは別に、そっとその背中へと伸び、ゆっくりとさするように上下に撫で始める。



「…………、」



俺の手が背中に触れた瞬間、しゃくりあげるリズムが変わり、その間隔が少しだけ間を空ける。

ゆっくりと、落ち着くように撫で続ける。
なんて声をかけてやればいいか…、そんなもん、井上との間に何があったのかわからねぇ以上、俺から聞くもんでもねぇし、聞いたところでこいつの求める答えを俺が答えてやれるとも限らねぇ。
とにかく今はこいつに落ち着いて休んでもらう事だけを考えて小さな背中を撫で続ける事しか出来なかった。



やがて撫でていた背中が大きく膨らむと、深呼吸をしたのか、その後ぐすっと鼻をすする音が聞こえ手を止める。



「…すっ…、すみっ、ませ…、お騒が、せ、して…っ」



まだしゃくりあげながらもぐすっと言って布団から上げた顔を手の甲で涙を拭いて言うが、顔は俯いたまま。



「いや…、」



背中を撫でていた手を離し、もう大丈夫なのかと訊ねようと口を開きかけると同時に「もう平気です」と俯いたままの顔で呟く。

泣き疲れたからなのか、それとも憔悴しきってしまったからなのか、俯いた顔を上げることなく鼻をすすり上げる様子にどうすることもできない俺は、ただ、震える背中をさすり続けることしか出来なかった…。
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