僕のおねえさん

□52.
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「きゃ…、きゃぁあ!!」



咄嗟に掛け布団を掴んで前を隠す。
な、なん…、なんで…!!?
言葉が声にならなくて、ただただ無音の言葉が口を象る。
そんな私の焦りを知ってか知らずか…、
いきなり現れた彼…。
井上林太郎君はにかっと登場したかと思うと、キョトンとした顔で一瞬時が止まったかのように動きを止めて、「えっ!?」と逆に驚いて声を上げる。



「えっ!?ちょっと沖田さん!こんなとこで服脱いじゃって!何してんの!?」



「何これ、俺得!?」とか言いながらふと何かに気が付いたのかカーテンから手を離して中に入ってきた。



「なんだ?くっしゃくしゃ。これ貼ろうとしてたの?」



床からそれを拾い上げるとくしゃくしゃになったそれを顔の横に掲げてにっこり笑う。



「あっ…、」

「これじゃあもう使えないし。新しいの…、俺が貼ったげるよ!」



くしゃくしゃになった湿布薬をさらに両手でくしゃくしゃと丸めて机の下のゴミ箱に捨て新しい湿布薬へと手を伸ばす。



「ぃっ!ぃぃぃいいいいっ!いらないっ!いらないからっ!!」



掛け布団をぎゅう〜っと胸の前で握りしめて全力で頭を振ってお断りする。
そんな私をぽかんと目と口を丸くして止まる井上君は、すぐにぶっはと盛大に吹き出して笑い出す。



「ぶっ…ははっ!そんな全力で…!なんかもう、ほんと沖田さんって面白いよね。」

「……ぇ……、」

「俺さぁ、プール行ってからその後全然会えなかったからちょっと気になってたんだよね〜。………沖田さんのこと」

「え………、」



ゆっくりと立ち上がった井上君の言葉に顔を見上げるとふっと口端をあげてそれからベッドのふちに腰掛けると、身をよじって私の背後へ手を伸ばして手をついて顔を近付けてきた。



「っ!!」

「プールでもあんまり楽しそうじゃなかったしさぁ…。それまでの合コンとかでは結構楽しそうに笑う子だと思ってたのにさ…。あれからうちの学校連中もそっちの学校の子達も『沖田さんは絶対俺に気がある感じだったのにどーしたんだ?』みたいな事言われて。…俺なんかヤな事したかな?」



右の肩に、まるで顔を乗せてるんじゃないかって位の近さで首を傾げて顔を覗き込まれて、井上君の息が頬を掠める。
その感覚にゾワリと鳥肌が立つ。



「ね、もしさぁ、今でも俺に気があるんだったら付き合ってみない?俺、今の沖田さん、めっちゃタイプ。…………、って!ぇえっ!?つかなんで泣いてんのっ!?」



いつの間にか私の頬は溢れる涙で濡れていて。



「な、なに!?そんな別にプロポーズでもないんだから、泣くほどの事じゃないでしょー!」



私の涙を目の当たりにして初めは焦ってた井上君だったけれど、すぐに困ったように笑ってそう言うと私のむき出しになっている左の肩をさするように上下に撫でまわした。



「っ!」



強張る私の肩を撫でながら「あれから10年も経つんだもんな〜。これって運命の再会?」なんて言いながら私の顔を覗き込む。




「………ないで…」

「んん?なに?」

「触らないで……」

「え?」

「触らないでよっ!」



掛け布団を両手で胸の前で握ったままだったから肩を左右に思いっきり振って井上君の手を振り払うと、突然のことに驚いた顔をする井上君をキッと睨んで思いっきり思ってたことを叫んだ。



「私、井上君のことなんて好きじゃないから!出てって!早く出てってよ!」

「ちょ、なに急に…。俺の事好きじゃないって、…だってあの時俺、周りから結構聞かされてたんだぜ?沖田さん俺のために張り切って新しい水着着て来るって。」

「っ!!」

「そっちの学校の子達もそう言ってたし。『あの子思ってることすぐわかるから間違いない』って」

「………っ、」

「また一緒に海でも行こうよ。」



「今度は二人でさ」と耳元で囁いて両肩に手を置かれグッと抱き寄せられるように力を入れられた。
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