僕のおねえさん

□46.
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☆★オオカミ男と仔猫ちゃん(※イメージです)★☆QLOOKアクセス解析






「そういやお前、今日はあれだろ?」

「?」

「弁当の引換券?一人で作るって…。もうできたのか?」



カップを口元に当てたままの土方さんが何気無く呟くように聞いてくる。



「え…?あ…、はい。あそうだ!これ、朝何時くらいから私配り始めたらいいですか?」



カバンからさっき会社で作ってきたカードの束を取り出して差し出された土方さんの手のひらに乗せると、それをふむ。と見た土方さんの視線が今度はまっすぐに私に向けられる。



「作ったのはこれだけか?」

「え?」

「これだけだと一日分のもんだろ?最低でもあと二三種類は色違いでもデザイン変えたもんでもいいから作らねぇと」

「え?」

「仮にこのカードを朝、生徒達が金を出して買ったとする。普通だったら金を払ったんだからその日の弁当と引き換えに店まで来るのが当然だ。だが、何らかの理由で引き換えに来られなかったら?」

「………、お支払いいただいた料金をお返し…?します?」



ジッと見つめられて答えを求められるその視線に、必死に考えて思いついた答えを返すと一瞬目を丸くした土方さんの時が止まる。



「ま、まぁそれも間違った答えじゃねぇが…、もしこの一種類でやるとしたら、当日引き換えに来なかった奴が別の日に何食わぬ顔して弁当を取りに来るかもしれない。そしたら、その日の分の用意した弁当と数が合わなくなってくるんじゃねぇか?」

「あ…、」

「それに回収できなかったカードも徐々に増えてくるかもしれねぇ。手間は掛かるかもしれないが、一日毎に違う種類のカードを使った方が店側としてはわかりやすいんじゃねぇか?」



確かに…。
土方さんはあと二三種類って言ったけど、それだったら曜日ごとに色分けした方がいいのかも…。
あ、でもそしたら『この曜日はこの色』ってパターンが分かっちゃったら一週間後の同じ曜日に持ってきちゃう子もいるかもしれない…。
ランダムで変えるしかないか…。



「そうですね。わかりました。それじゃあまた明日会社で作ってきます。それで朝の時間なんですけど、学校は何時から門を開けるんですか?」



カードを返してもらおうと手を差し出して訊ねると「?」という顔をされる。



「あ…、あの…?」

「なんだ?まさかお前、朝学校に来て自分で配ろうと思ってんのか?」

「……え?……は、はぁ…」



そうですけど?なに?何かいけなかった???

ものすごく怪訝な顔で眉間にシワを寄せて見下ろされてるような気がして、なに?私ホントなに間違えた〜!?って気になる。



「はぁ…。お前、朝こんなもん学校に配りに来てたらお前んとこの出社が遅れちまうだろうが…。これくらいこっちでやるから…。」



はぁあ〜と眉間のシワを指で押さえてすごく呆れられてる!



「えっ!でも、引換券お渡しするのにお会計の作業も発生しますし…。そんな朝から先生方のお手を煩わせる訳には…!」



慌てて言うと眉間を押さえて伏せていた眼をすっと向けられどきっと息が詰まりそうになる。



「いいから。黙って俺の言う通りにしろ。」

「え……」

「これは毎日の事になる。いくら自分が大丈夫だと思っても、毎朝学校でこれ配ってそれから会社に出勤…、なんてやってたらいくら体力があろうがこれから先、季節的にもキツくなってくるだろう。」



今日みたいな穏やかな気候ばかりじゃねぇからな。と言いながらマグカップに口を付ける。



「幸い今年から風紀委員も一人体制から二人になって朝の登校チェックにも余裕が出てきたみてェだし、そいつらに手伝ってもらうこともできる。」

「で、でも…」

「でもじゃねぇ。俺がそうするっつってんだ。お前は黙って言う通りにしろ。」

「………ぇぇ〜…、」



なんでこんなに上から目線で言われるの〜?
だってこれって会社絡みのことだし、ここだけで決めちゃっていい話じゃないような気がするのに…。
そんな不安が顔に出てしまったんだろう。私の顔を一瞥して、また一口コーヒーを口に含む。



「心配すんな。このやり方でするってのは近藤さんとツネさんの発案だ。もうお前の会社の方にも多分連絡済みだ。」

「え?」

「昨日、お前と、……島田?の電話のやり取りの事、家に帰ってから近藤さんに伝えたんだよ。そしたらすぐにお前の上司に連絡しとくって。」

「は…、はぁ…」

「カードも今日作りに行くって電話で言ってたの聞いてたしな。月曜の分だけでも受け取れてよかったぜ」

「……え、そ、それじゃあ、本屋さんで会ったのは…、」



偶然じゃ……、


そこまで言うと私の言葉を遮るように突然取り乱したように慌てる土方さん。



「っ…!そっ…、それは…だな…、違うっつーか…。ま、まぁ駅で会えりゃあいいか…、とは思ってはいたが…、違う!本屋でぶつかったのはほんとに偶然だ!あんな人混みの中で待ち伏せてたっていつ出てくるかわからねぇのに見つけられる訳…、ねぇだろう…。かと言ってお前の連絡先だって俺ぁ知らねぇわけだし…。本屋で暇つぶししようかと思ってたらそこに偶然お前がいて…」



しどろもどろに目を泳がせてブツブツぼそぼそなんだか言い訳がましく言ってるけれど、結局何が言いたいのかさっぱり伝わってこなくって、
それがいつもの土方さんとは程遠い、彼らしくもない様子がおかしくて笑っていいものかどうなのか…。
笑っちゃダメかもと思えば思うほどこみ上げてくるものが強くなって、頬が持ち上がってしまう。



「………、笑うな」



最後にそんな風に呟かれたらもう我慢の限界!
これで笑わない人なんているはずがないよ!



「あ……、ぁははっ!もっ!もぉっ!笑かさないでくださいよ っ!あははっ…、おかしぃ〜〜〜っ!なんなんですかもぉ!」

「ぅ…、うるせぇっ!笑うなつってんだろぉが!」

「だっ!だって!そんな反則ですよ!土方さんがそんなほっぺたピンクにして『笑うな』って!そんな低い声で言っても!あはは!ダメ、苦し〜〜〜!」



真っ赤な顔して狼がガルル〜!って目を吊り上げて怒ってるみたいに怒鳴るけど、そんな顔もおかしくて湿ったキャミソールの上からお腹を抱えて笑い転げる私。
こんな風にバカ笑いするなんて、きっとこの人の前だけだと思うって、何故か思った。
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