僕のおねえさん

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部屋の至る所に積み重ねられていた本のタワーをとりあえずカウンターキッチンのスツールの奥、テレビの横に空いていた壁際のスペースに集結させた。

私が目の前を何度も本を抱えて横切っても、ソファーに座ったこの家の主、土方氏は長い足をこれでもかとアピールしているかのように、ソファーにどっかりと背を預け、組んだ足を存分に延ばして読書に更け込みお寛ぎになられていらっしゃった。

そんな彼から醸し出される優雅で閑麗な空気を背に私はというと、正面には壁、両脇には大量の本…という、もはや客人にあるまじき環境に置かれているという…。


うん。
もうこの家に連れ込まれて数時間経つけど?この状況?お客より家人の方が寛いでるっていう?
うん、まぁそれはそれでいいんですけど?お客さんが厚かましく寛ぎ過ぎってのも問題だろうし?だけどさ?でもさ?
ちょっとコレって酷くないですか?
私家政婦じゃないのに。
息子の様子を見に来た実家のお母さんでもないのに。
ぅぅう。湿ったキャミソールがお腹を冷やして切ないよ…。


床にぺたんと座り込んで、肩越しにチラリと盗み見る。
長い睫毛を伏せ、本に視線を落とすその眼差しは本当に羨ましいほど綺麗で誰もが見惚れてしまうほどの整ったお顔立ち。

だけど私は誰もが見惚れてしまうというその美貌に同じように見惚れるなんて心理状態にはなれなかった。
今こうして盗み見ていても、思うことはただ一つ。


『自分で散らかしたものは自分で片付けてください』


だってさ、こういう人って大概自分で片付けしないくせに人が少しでも移動させただけで『あれはどこ行った?どこやった?』って言うんだもん。土方さんなんて特に言いそう。『余計な事しやがって』とか言ってものすごく深いため息つくに決まってるんだから。
高校の時の物理の先生がそうだったもん。準備室の掃除当番なんて、みんなやりたくなくてサボり続出で大変だったもん。


はぁ…。

嫌なこと思い出したな…、と密かにため息をついて膝に視線を落とす。
膝の上で手に持っていた一冊の本。
『幕末志士の辞世の句』
他にも近くに散らばる本を手に取りタイトルを見る。
『戦国武将の辞世の句』
『歴史上偉人名言集』

歴史とか好きなのかなぁ…?
これとか完全にシリーズだよね。歴史シリーズでまとめた方がいいのかな…?

ざっと見てもそのほとんどが歴史をテーマにしたもので、ここにあるだけで本屋さんのコーナー一角に匹敵するくらいの本の数。

心理学の本もあるけれど、まとめるとほとんど俳句や名言集に基づいた心理追求のような内容が目立つみたい。

どうしよう…。
ジャンル分けとかしてたら物凄く時間かかっちゃいそうだし…。
かと言ってあの土方さんに聞くのもな…。
早く帰って服も替えたいし…。


………。




棚も何もないそのスペースにパパパっと本を並べる。
一段目を並べ終え、その上に一冊ずつ横に寝かせた状態の本を乗せて棚板代わりにしてその上にまた本を乗せて並べる。
もうジャンルとかそういうの一切無視。早く帰りたい一心でその作業を進めて、ようやく全ての本が壁際に納められる頃には、その高さも立ち上がった私の腰の位置くらいまでに達していた。

ほんと…、本屋さんができそう…。

ふぅっと息をついて汗をかいたわけでもないけれど額をぐしっと手の甲で拭って、一見本棚に収納されてるかのようなそれを腰に手を当てて見ていると、どこからともなくコーヒーのいい香りが漂ってきた。



「おつかれ。終わったみてぇだな」



振り向くと両手に一つずつマグカップを持ってキッチンから土方さんがひょっこりと登場してソファーの前のローテーブルにコトリと音を立ててそれらを置くと「ブラックでいいよな?」と言いながら腰を下ろした。
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