僕のおねえさん

□44.
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あの時のお礼…。
あの時の………、


何冊も重ねて持たされた本を両手に抱えて『あの時のお礼』というワードが頭の中を駆け巡る。
そんな私の呆然とした顔を面白そうに眺めた土方さんは、更にニヤリと口端を上げると「お前あん時言ったよな」と顎をさすっていた手を腰にあてて首を傾げて私の目を真っ直ぐに見る。ニヤリと細めたままの瞳で。



「『今度あった時はたくさんお礼させてくださいね!』って。」



突然、普段の落ち着いた低い声をポップにライトにファンキーにして両手を顔の横でキュッと握って可愛らしく言った後、そのポーズのままニヤリと口端を上げて何かを企むような笑みを浮かべる土方さんにゾクリと背筋が伸びる。


えっ?っと?
そ、それって私のマネ?
してないしてない!そんなのしてない!



「えっ!?私そんな…」

「言った。また会えますかってお前が聞いて来たからどっかで会うだろって答えたら、お前嬉しそうにそう言ったじゃねぇか。」

「え…………、」

「まさか、ついこないだの事なのに忘れたとは言わせねぇぞ。」

「ぅ…」

「それとも…、近藤さんちで会った時のように何事もなかったみたいな顔してシラを切ろうと…」

「シ……、そ、それは違うんですっ!」



ニヤリとイタズラな笑みを浮かべた顔を接近させて言う土方さんに、勢いよく顔を上げて否定すると、思ったよりもその距離が近くてお互い丸くした目が寄り目になってしまう。



「っ!」



ばっと一歩後ずさって思わず目の下まで本で隠す。
土方さんも屈めていた背を伸ばすと咳払いをしながら軽く握った拳で鼻先に触れて視線をそらす。



「まぁ…、なんでもいい。とりあえずその本片付けてもらおうか」

「え…」

「普段は特になんとも思わなかったが、今お前が雪崩れ起こして改めて見たら結構読み終わった本出しっぱなしになってたと思ってな。その辺の本、テキトーに片付けてくれ。」



そう言うとやっぱり先程買って来た本を手に取りソファーに深々と沈む土方さん。



「えぇえ〜…」



そんなテキトーにって〜…。

私も改めてリビングを見渡してあちらこちらに積み重なる本の山を見てうんざりとなる。
カウンターキッチンのスツール二脚の上に、それからその下にもずらり。
もちろんカウンターの上にも隅から階段状に積み重ねた本が並んでて。

テレビの置かれたおしゃれなチェストの横にも壁際にずらりと積み重ねられていて、窓際のスタンドライトの足元にも本の山。
ここからじゃ見えないけど、きっと土方さんが座るこのソファーの向こう側にも山があるに違いない。

まさに部屋の隅から隅まで本の山状態。
歩くスペースと部屋の中央以外にまるで埃が蓄積されて行くかのように溜められていったような本を片付けろと言われて、どうしてこうなったんだろうと、もうそのきっかけすら思い出すのもめんどくさくなる。


はぁ…。



『たくさんお礼させてくださいね』



確かに言ったかもしれないけど…。
なんか違う気がする…。

もう一度ため息をついて、なんか違う気がする〜…と何度も心の中で泣きながら、とりあえずスツールの上に乗っている本の山の上に、元にあったとおり持っていた本を重ねて置いた。




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