僕のおねえさん
□44.
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☆★あの時のお礼★☆
「ほらよ。到着、お姫様。」
「どぅわっ!」
ばさっと取り込んだ洗濯物の山を放り込むようにソファーに降ろされる。
「どぅわってお前は…、もっと色気のある声でねぇのかよ…」
ソファーに沈む私を仁王立ちで見下ろし「ったく…」と呆れたようにため息をつく土方さんは一体私に何を求めてるんだろうか。
「ぃ…、色気って〜…」
事故とは言え突然抱きしめられて、その上気が付けばお姫様抱っこされた挙げ句の果てにソファーに投げ落とされて…、
そんな状態で色気を要求されても咄嗟にできるもんじゃないしっ!
ムリだしっ!
他の人にできたとしても私はムリだし!できないしっ!
第一、もし仮にそんなことが可能でお望み通りの声を発したとして…、
そしたら私をどうするっていうのっ!?
なんなのなんなのなんなのわぁーーーー!
「わぁーーーわわわ私そろそろ帰りますーー!!」
勢いよくソファーから立ち上がって両手をギュッと腿の横で握って気をつけして叫ぶと真正面に立つ土方さんにべしっと頭をはたかれた。
「あぃった!?」
「あ…、わりぃ、つぃ……。っつーかお前……、なんもしねぇよ、全部セリフ出てんぞ。」
バカが。と言ってここに来た時と同じように頭をおさえる私の手の上を大きな手が優しくぽんぽん弾む。
「お前みたいな女に手ェ出してみろ。総司に何言われるかわかったもんじゃねぇ」
「お前みたいな女って…」
優しく微笑みながら言うけど何気に酷くないですか…?
う…。ちょっと傷ついたかも。泣いちゃうかも。
「わ…、私、帰ります…。」
俯いて撫でられていた頭を下げてその場からカウンターキッチンのスツールへと移動する。
そこに置かれた自分のバッグを手に取ると、不安定に積み重ねられていた本が数冊音を立てて床に落ちてしまった…。
私どんだけ脱力系なんだろ…。
「す、すみません」
自分に呆れながらもバッグを床に置いてしゃがみ、床に散らばる本を手に取る。
「ぁ…」
土方さんが小さく息を引きつらせたような気配を感じたけれど、私は手元の本のタイトルを見つめて呟く。
「豊玉宗匠、全四十一句に馳せた誠の心理…」
しゃがんだまま手にとったその一冊の表紙を見つめていると、他に散らばった数冊をまとめて拾い上げた土方さんの手がにゅっと視界に入り込んで私の手からその一冊を取り上げるように持っていく。
「ぁ…」
「見てんじゃねぇよ…」
高いところにあるその顔を見上げるとぷいっと横を向いた真っ赤な耳が見える。
「ぇ…、あ、ご、ごめんなさい…」
その様子に、あまりにも見てはいけないものだったのかと思って猛烈に罪悪感が襲ってきて、とにかく早くおいとましようとバッグをひっつかんで立ち上がる。
「そっ…、それじゃあ、私…、失礼しますっ!」
勢いよく頭を下げてから回れ右すると、「ぉ、おい…」と言って手を伸ばした土方さんに私の肩から下げたバッグが遠心力に従って豪快に当たり、ふたたびバサバサっと音を立てて床に本が散らばる。
「あっ!」
「あー…」
「す、すみませんーーー!」
もう泣きそうー!なにやってんの私ー!
もう一度しゃがみこんで散らばった本たちを拾い集めては左手に抱える。
「ったく…」
手を伸ばした先の本がサッと持って行かれて顔をあげると、そこにはため息をついて微笑む土方さんが私と同じようにしゃがみこんでいた。
「落ち着きねぇ奴だな。そんなに慌てて帰るこねぇだろうが…」
「ぅ……、すみません…。」
「また謝る…。お前のすみませんはもう聞き飽きた。」
「えぇえ〜…、」
私の顔も見ずに次から次へと散らばった本を拾い集めながらそう言うとひとまとめになった本をばさっと私の持つ本の上に乗せる。
「急いで帰らなきゃなんねぇ用事でもあるのか?」
「え…?」
そう言って立ち上がる土方さんに合わせて私も立ち上がってその顔を見上げる。
「たいした用もねぇんだったら…、あん時のお礼でもしてもらおうか。」
「え……?」
何かを思い出したように顎をさすりながらニヤリと細める瞳に私の心臓は一瞬大きく跳ね上がったあと、ものすごい速さで脈打つもんだから、瞬く間に背中からジワァっと嫌な汗が噴き出すのが分かった。