僕のおねえさん
□43.
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☆★土方さん、おねえさんをほっとけない。★☆
「………うまい…」
家に帰ってきてかれこれ一時間は経過した昼下がり。ようやくあり付いた昼飯は鮮やかな黄色に赤のコントラストがくっきりとしたオムライス。
どうぞと目の前に差し出されたそれは飯の上にふっくらとした黄色の楕円形が乗っかっていて、それを総司の姉が俺の前で中心を器用にナイフで割り裂くと綺麗に象られた楕円はそれぞれの方向に引力に従いめくれ落ち、中の半熟状態の姿が現れる。
そこに先程俺が見た…、
こいつが味見をして満足そうに頬を緩めていた赤いソースをスプーンでのせる。
「お口に合いましたか?良かったです」
ひとくち食べた俺の口から漏れた一言に目を輝かせて嬉々とするこいつについ素直に返事が出てしまう。
「あぁ、この家でこんなうまい飯が出てくるなんてな」
うまいもんを食うとこんな本音まで出てくるのかと自分にも驚くが、俺の発した言葉に瞬時に変わるこいつの表情の変化にも驚くものがある。
「お前の分は?食わねえのか?」
真っ赤になって顔から湯気を出しながら肩を竦めて正座するこいつの前には何もなく、ローテーブルには俺の分の料理とグラスに注がれたお茶だけ。
「あ、あぁあ、私はいいんです!もう帰りますから!」
「なんだよ、腹減ってねぇのか?」
「あ、…あ〜、まぁ〜、そういうことで…」
真っ赤な顔で目を泳がせながら言うがそれが事実だとは全く思えない。
「なら食えよ。ほら。」
一口分をすくって口元に差し出せば、その香りが鼻腔を一層刺激したのか、見ているだけでわかるほど頬を綻ばせ口を開きかけるが、すぐにはッと我に帰ったように目を丸くするとブンブンと顔を横に振る。
「ぃ…ぃいえ!そんな!これは土方さんに作ったんですから。どうぞ、」
「……、これは俺のってことで、俺のもんなんだから俺の好きなようにしていいって事だろ?」
「…???、は…、はぁ…」
「じゃあ食え」
「は、はぃ?」
「俺のもんなんだから俺一人で食おうが誰かに分け与えようが俺の勝手だろ?」
「えっ!?いや、でも!」
「いいから、ほら」
スプーンを口元にぐっと寄せると戸惑いながらも寄り目でそれを見てゴクリと喉を動かす。
ゆっくりと小さく開く唇。
俺の手元を見る視線。
開いた唇の隙間にスプーンを差し入れようとした瞬間。
「っっ!!スプーン持ってきますっ!!」
勢いよく立ち上がりキッチンへと逃げるように駆け込んで行った。
「………、」
行き場のなくなったスプーンのそれをチラッと見て、仕方なく自分の口に放り込む。
キッチンから同じブランドのスプーンを持ってくるとさっきと同じ場所に座り、俯くように顔を伏せる。
「………、」
「………。」
伏せた顔はどうした事かゆでだこのように赤く染まって、持ってきたスプーンを握りしめた両手を膝の上から動かそうともしない。
「………どうぞ」
皿を少し寄せてひと声かけてやるとパッと顔をあげて動揺しながらも顔の前で手を合わせて「ぃ…、いただきます」と端の方を小さく掬って口に含み、すっかり桃色に染まった頬を綻ばせ目を細めた。