僕のおねえさん
□42.
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☆★おねえさん、土方さんを悟る。★☆
お歳暮やらその他の頂き物の数々を箱から出した私たちは、お昼に使えそうなものを物色しながらとりあえず食べ物はもう一度冷蔵庫の中にしまって、その他のものは土方さんにそれぞれの場所に片付けにいってもらった。
さっき一番最初に出てきたカタログギフトの冊子とか、それからブランドもののタオルセットとか。
あとは洗剤石鹸ボディーソープセットとか。
すっかり見違えるほどスッキリした冷蔵庫の扉を閉めて、ふとキッチンの奥の壁際に目を向けると、そこには昨日の帰りに近藤さんから分けてもらった卵がもらった時と同じ袋のまま放置されていた。
「ちょ…、土方さん、こういうのこそ冷蔵庫に入れとかなきゃ!」
んもぅ…。せっかくの新鮮たまごが…。
ぶつぶつ言いながらそれらを冷蔵庫のドアポケットにしまって、ほんとに大丈夫かなぁとか思う。
いくら忙しいとか帰ってからはゆっくりしたいとか思ったとしても、やっぱりこんなに散らかってたら良くないと思う。
精神的にも、それから何の罪もない物たちにも。
土方さん、あんなに見た目綺麗でカッコいいのに、お世話してくれるような、支えになってくれるような彼女とかいないのかな…。
…………。
そういえば、昨日の会話の中でも言ってたっけ、総ちゃんが。
そんなんだからいつまでたっても彼女ができないんですよ、って…。
どういう会話の流れでその一言が出たのかもう覚えてないけど…。
そんなことをぼんやりと思いながら、お昼ごはんに使えそうな食材として選んだ高級感満載の金のラベルが貼られたハムの塊をキッチンの上にコロコロと転がしてみる。
と、いろいろ片付け終わった土方さんが廊下からキッチンの横をスッと通りががって、ちょうど転がしたハムが目についたのか、足を止めてひとこと。
「おい、遊んでねぇでさっさと作れ」
…………。
あー……、
これじゃぁムリだね。
捨て台詞のようにひとこと言うと、一仕事(お片付け)を終えたとばかりにどすんとソファーに腰を降ろしてまた読書に更け込んだ。
「………。」
さぁ、
さっさと作っておいとましよう。そうしよう。
ハムと…、
卵もあんなにあってもきっと土方さんダメにしちゃうだろうから使っちゃおう。
野菜は…、
冷蔵庫の野菜室を開けて見てびつくり。
………、
そこに野菜の影はなく、あるのはやっぱり高級感漂う贈り物…。
「………、土方さん?」
…………。
「土方さんっ!?」
野菜室を見ながら呼んだ声には何の反応もなく、聞こえなかったみたい。
振り向いて再度聞こえるように呼びつけると私の声が意外に大きく感じたのか、ギロっと視線だけを向け、そのあと本から顔をあげると盛大な舌打ちをする。
「ちっ!今度はなんだ?」
ソファーに座ったままで偉そうに顎をあげて聞き返されて、あぁもうこの人はこういう人なんだって理解すると、もう怖いなんて思わなくなってきた。
だって私なんにも悪いことしてないんだもん。そんな態度取られる筋合いなんてこれっぽっちもないんだからね!
「土方さん!冷蔵庫は収納棚じゃないんですよ!?贈り物!また出てきちゃいましたよ?」
「あぁん?まだあんのかよ…。ったく…、一度で済ませやがれ」
………、はぁあ?
もうほんとなんなのとしか言えない。
こんな自分勝手な人そりゃあいくら見た目綺麗でカッコ良くたってムリムリ!
見た目でお付き合いしたいと思う子がいたとしても、こんなんじゃ長続きなんて絶対しないよ!
「これで最後だな?」
野菜室に入っていた箱を持って私に聞いてくるけど、知りませんよ。だいたいあなたが入れたんでしょお?
なんて言えませんけど。
あり得ないけど。取り敢えずあり得ないんだけど、冷凍庫も開けてみる。
高級冷蔵庫は冷凍庫を開けてもとても静かで、うちみたいに長年使っている冷蔵庫みたいに微かなモーター音さえ聞こえない。
けれど音はせずともきちんと、当たり前だけど庫内を冷やしていて、そこにある物もしぃ〜〜〜〜っっかりキンキンに冷やされていた。
「…………。」
「…………、」
「……これで、最後だな?」
無言でジッと見る私の視線をスルーして冷凍庫の中を空にして閉じる土方さん。
暫くジーっと見つめて「だといいですね」とだけ返事をすると、
「………、昼飯、頼んだ」
と本日何回目かのセリフを残してまた廊下へと姿を消して行った。