平助の母親
□40.
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「そういえば永倉さんは?」
はたと気がついて訊ねると、
「あいつぁ既に夢の中」
親指で後ろのテントを指さし呆れ顔。
「相当酔いがまわってたみたいでしたしね…」
苦笑いを浮かべて鼻息の荒い永倉さんを思い出す。
あれはちょっと怖かった…。
そのあとすぐ土方先生に呆れられちゃった事が頭を過り、苦笑いの頬に入る力が抜けてそのまま私の気持ちと同じように視線も沈んでしまう。
「土方さん、って…」
「えっ!?」
まさかこのタイミングでその名前が出てくるなんて思ってなかったからつい驚きの声をあげてしまう。
そんな私のリアクションも想定内、といった感じで一瞬チラッと視線を向けたけど、特に気にする様子もなく言葉を続ける原田さん。
「おまえとどういう関係なんだ?」
「え……、関…係って………」
ズバリと聞かれた内容と、
原田さんから向けられるまっすぐな視線に戸惑ってしまう。
「どうみてもただの教師と保護者って感じじゃねぇよな。なんつーか…、昔からの知り合いみてぇな気のおけない関係?昨日今日の間柄には見えねぇんだよな」
「あ…、あの…」
なんて言ってこの場を切り抜けたらいいんだろう…。
まさかホントの事なんて言えるわけないし、
それに、私と土方先生との関係って…
お互いにはっきり気持ちを伝えあって、これから先の事も話したりはしたけど…。
つい先日、土方先生の部屋で二人っきりで過ごした事を思い出してしまい、無意識に顔が熱くなる。
そんな私の変化に目敏く気付いたのか、原田さんは後ろについていた手を額にあて、前屈みの姿勢になり突然笑いだした。
「ハハっ!おまえなぁ…、そんな分かりやすい反応すんなって」
あ〜ぁあと言ってため息をついて前髪をかきあげると焚き火の火を見つめる。
「やっぱそうか」
「…………。」
原田さんが何をどう納得したのかわからないから返す言葉も見つからなくて、次に原田さんが言う言葉を待っていると少しだけ寂しげな表情で、でもオレンジの灯りに照らされた優しげな眼差しをわたしに向ける。
「お前みたいないいオンナ、他の男にはやりたくねぇとは思っていたが…、お前がサイコーにいい顔して笑っててくれるならしょーがねぇよな」
ため息をつきながら立ち上がり、座っている私の遥か高い頭上を、今は暗闇に包まれている白樺の林道へと視線を向ける原田さん。
原田さんの顔を見上げて、その視線の先を辿ってみると、こちらへまっすぐ歩み寄ってくる人影が見えた。
「お前の笑顔を曇らせる男はいくらでもいるかも知れねぇが、それを晴らしてやれるのはあの人にしかできねぇみたいだしな」
そう言って原田さんはヒラヒラと片手を軽くあげて永倉さんが眠っているというテントの中へと入って行った。
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