平助の母親

□38.
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☆★やっぱり永倉さんは勝手に喋るし勝手に動く。★☆QLOOKアクセス解析





目を閉じてお湯に浸かっていると、露天風呂の仕切りの向こう側から誠自動車のスタッフの声が聞こえてきて、賑わってるな〜と耳を傾ける。


「見よ!おれの鍛え上げたこの身体!」
「バーカ新八!前隠せバーカ!」
「バカバカいってんじゃねーよ!隠すなんて潔くねーだろーが!なぁ土方さん!」
「俺に振るんじゃねぇよ」
「なんだよなんだよつれねー事ゆーなよぉ!こうして裸の付き合いする仲なんだから〜、……って!土方さん。あんたひょろっこいと見せかけてなんだよ、案外いい身体してんじゃねーかよチクショー!」
「バッ!?さわんじゃねぇよ!気持ち悪ぃ!」
「どれどれ?…おぉ!土方さん。…いいねぇ」
「な!?や、やめろバカ!どこ触ってんだよ!」
「良い具合の胸板にこの筋肉の硬さ加減…。こんなとこに抱え込まれたら女はイチコロだろー。土方さんあんた相当モテるだろ?」
「いやいや、だったら俺のがモテるだろ!この筋肉美!毎日端正こめて仕上げてんだ!そんじょそこらの筋肉と一緒にしてもらっちゃあ困るぜ!」
「あほ。お前のはなんか男臭くてひくんだよ。ドン引き。もっと気を使うとこあるだろ」
「なんだよ、気を使うとこって!教えろ!」
「教えるかバーカ。まぁ土方先生お手本にしときゃ間違いねぇだろー」
「土方しぇんしぇえ!おれにモテる極意を教えてくださぃよ〜!」
「はぁ!?んなもんねぇよ、触るな!」
「そんな冷たいことおっしゃらずぅ〜!俺だってモテたいんだよー!」



…………。

男湯ってある意味カオスだな…。
そんなことを思いながら、男性陣より早めに上がって身支度しなきゃと温泉を後にした。


髪を乾かし肌を整え眼鏡をかけて、脱衣所を出てすぐのロビーで皆さんが出てくるのを待つ。
外の景色が眺められるように設置してあるソファーに座ってケータイを取り出すと土方先生からのメールが一通。


『無事遭遇いたしました。』


先生からの初めてのメールは、いかにも先生らしい余計な装飾は一切ない文面。
別に何もおもしろいことが書いてある訳じゃないのに、先生らしくて知らず知らずに顔が弛んでしまう。
ケータイを両手で胸に当てて、土方先生と出会えた事を幸せに感じて、そんな気持ちも抱き締めるように身を屈める。

すると背後から「どうした?寒いのか!?」と声をかけられあわてて顔をあげて振り向くと、そこにはお風呂上がりの土方先生。

先生は振り向いた私の顔を見て、一瞬目をキョトンと丸くしたけれどすぐに優しく目を細めると

「なんだ、また眼鏡かよ」
と笑いながらソファーに座り込む。

「コンタクト、使い捨ての明日のぶんしか持ってきてないので…」

家でもお風呂上がりは眼鏡なので。
と右手で眼鏡をキリッとあげて見せるとくくっと笑われた。



「で?寒くないのか?」

まっすぐに目を見て少し心配してるような眼差しを向けられドキッとする。

「あ、…えと、…寒くはないです」
「そうか?さっき縮こまってたから寒いのかと思ったよ。しっかり乾かしてきたのか?」

そう言ってわたしの襟足の髪の毛を掬って確かめる先生に、恥ずかしくなって首も耳も頬も熱くなる。

「?急に熱くなったな」
確信めいた笑みを浮かべながらニヤリと私の顔を覗き込む先生。

「も、もぅ!やめてください!」

火照った顔をパタパタと手で扇いでそっぽ向くとくくくっとまた先生の笑い声。
もぉ!完全に遊ばれてる!

「そ、そうやって先生は女の子からかって楽しむんだ〜、ふ〜ん?」

自分だけ遊ばれたのがくやしくってちょっと嫌な言い方で話を振ると突然何言ってるんだと言わんばかりの顔つきで目を丸くする。

「なんだ、いきなり?」
「聞こえてましたよ〜?先生は相当モテるだろって!原田さんからの御墨付きなんて相当じゃないですか」
「……、なんだよ、妬いてんのか?」
「や、妬いてません〜!ただ相当オモテになる土方先生の胸板に何人の女子がイチコロになったんだろーって思っただけです〜!」


ん?


あれ?これって焼きもち?
自分の言葉に首を傾げてクエスチョンマークを浮かべると、ブハっと盛大に笑い出す先生。

「ふっ!バカだな。それを妬いてるってゆーんだよ」
「う、うぅ〜…」

膝の上にケータイを持ったまま両手の握り拳をギュット握ってうつむくとスッと左の頬を撫でられ

「俺はお前の柔肌にイチコロにされちまったけど?」

組んだ脚の膝に左手の肘をついて、私の目を覗き込んで物凄く色っぽい瞳で見つめられる。

「っ!!」

思いっきりのけぞった所で、温泉の入口の方から賑やかな声とともに誠自動車のみんなが出てきた。


「あれ〜?名前ちゃんはまだみてぇだな、っと…、おっ!土方先生!」

キョロキョロとロビーを見回して土方先生を見つけた永倉さんがこちらに近づいてくる。

「あれ?土方先生、誰?この子。先生の生徒さん?」

ソファーの背もたれに手をついて首にかけたタオルで頭をガシガシ拭きながら先生に訊ねる。

「…なんで生徒とこんなところにいなきゃなんねぇんだよ。こいつぁ苗字だよ。わかんねぇのかよ…」

チッと舌打ちをして顔をそむける。
土方先生、よっぽど永倉さんに絡まれるのが嫌なんだ…。

そんな土方先生の様子をちょっとその気持ちわかると苦笑い気味で見ていたら盛大に驚く永倉さんの声に原田さんたちもこちらにやって来る。


「何デカイ声出してんだよ新八」
「原田くん、永倉くんはいつも大きな声じゃないですか」
「ははは、元気で良いじゃないか」
「それにしても苗字さんはまだでしょうか?」

私の姿を探してロビーを見回しながら歩いてきた山崎さんの肩を掴んで、もう片方の手で私を指差す永倉さんは震える声で、私から視線をそらさずに

「な、な、な…」

と言葉が出てこない。

「デカイ声出したと思ったらなんだよ?土方さん、どうしたんだ?迷子か?」
原田さんまで私に気がつかない…。

「あ、あの…」

なんでわかんないんだろう…。ソファーから立ち上がってみんなの方へ向き直ると、座ったままの土方先生がお腹を抱えて笑い出す。

「くっ!…はははっ!迷子って!そりゃねぇだろ!いくらなんでも…!」

土方先生があまりにも笑う姿が意外すぎてみんなが目を丸くして動きを止める。

「あ、あの…、土方先生…」
「と、トシ、どうしたんだ…?」

近藤様もあまりの土方先生の豹変ぶりに驚きを隠せず戸惑っているみたい。

「はっ…、はぁ…!くくっ!!」

なんとか笑いを堪えようと頑張っているみたいだけど、なんだか気の毒なくらい肩を上下に大きく動かして呼吸を整える土方先生。
なんとかソファーから立ち上がって、涙目を擦りながらみんなへ向き直ると

「あんたらわかんねぇのか?名前じゃねぇか」
と私を親指で指し示す。

その瞬間皆さんの視線が一斉に私につきささり、私はどう反応したらいいのか困ってしまう。

「名前って…、苗字?」

原田さんが指差す。

「あの…、苗字です…。」

小さく手をあげて名乗ると皆さん声を合わせて盛大に驚く。

その驚きの声の大きさに、ロビーにいた人全員の視線が何事かと一斉にこちらに向けられた。
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