平助の母親
□37.
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「あらやだ、あの怒鳴り声、お宅のお連れ様じゃなくて?」
シャンプーの泡を立てて頭を洗っていると土方先生の声だってすぐにわかる怒鳴り声が屋内浴場に響き渡り、
私の背後で体をごしごし洗っている奥様方がそれまで楽しそうに交わしていた会話を止めて先生の声に反応した。
頭を洗いながら、鏡に写る奥様方の背中を見て、
あぁ近藤様の奥さまとお連れさまかぁと思っていると、そのお連れさまの多さにビックリする。
最初隣同士で喋っていたかと思ったのにあれよあれよと私の周りの奥様方が会話に参加していて、奥様方特有の弾丸トークが炸裂。
別に会話に参加している訳じゃないんだけど、正直テンポの早さについていけない…。
手短にシャンプーを流して体も洗ってその場を離れる。
そこにいても聞きたくない話まで聞こえてきそうで怖かったから。
取り合えず奥様方は敵に回してはいけないって事がよくわかりました。
近藤様の歯切れが良くなかったのも納得できたと同時に、ちょっぴりいたたまれない気持ちで屋外の天然露天風呂へと足を向けた。
一歩外へ踏み出すと、体を温めずに来たせいか外気が濡れた体全体にヒンヤリとしてちょっと寒い。
急いで温泉に浸かると熱めでとろみのあるお湯がからだの芯までじんわりと温めてくれる。
「はぁ〜、い〜ゆだな〜」
体をくるりと反転させて温泉の縁の岩に両腕をのせて腕を枕にして目を閉じる。
「ごくらくだぁ〜」
こんなに一人でのんびりできる日が来るなんて夢にも思っても見なかった…。
夢見心地で湯船に浸かって頭のなかを空っぽにする。
けれど、空っぽにしようと何も考えないようにするけれど、頭の中に思い描かれるのは土方先生のまっすぐ私を見る瞳。
先生はどうしてあんなに私の気持ちをわかってくれるんだろう…?
私の、
きもち………