平助の母親

□35.
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☆★流した涙の分だけ空は輝き虹が架かる★☆QLOOKアクセス解析





河原から白樺の林道に戻り名前と並んで近藤さんたちがいるテントへと向かう。

その間俺も名前も無言。暫くそのままでいたが、
名前が何を言いたいのか、何から話せばいいのかわからない、
でも俺に何かを言わなくてはという思いが隣を歩いているだけでひしひしと伝わってくる。


「…………。」
「…………。」


ちらりと横目で名前の表情を見下ろせば、歩みを進める自分の足元を見ていたが、口元をキュッと引き締めたかと思うと、パッと俺を見上げる。
当然俺と目が合い、その事に驚きバッと顔を背ける。


……、
あからさまだな…。

小さくため息をつくとチラッとこちらを見上げる視線を感じる。


「あ、…あの、」
「別にお前が話したくないなら無理して言わなくていい」

前を見たまま歩を止めることなく言う。

「あ…、」

「お前が過去に誰と何があろうが、その過去があるから今のお前がいるんだろ?その過去があるから、今俺はお前とこうして歩いているし、大切に思える存在ができた」
それでいいじゃねえか。

そう言って名前に視線を向けると、大きく見開いた瞳は次第に揺らめきそして顔を伏せるように俯く。


「………。」
「………。」


立ち止まり俯く名前に合わせて俺も歩みを止め振り向くと、
トンと懐に軽い衝撃、それから鼻先を掠る甘い香り。

「お…、おい…」

思わず受け止めてしまった小さな肩は微かに震えているようで、俺の胸に寄せる表情は見えないが、泣いているのか涙を堪えているようだ。


「………、」


震える背中をさすってやるとキュッと俺の服を掴む。

「……、一人で今まで抱え込んできたんだろ?…俺はお前の生き様を見てきた訳じゃねぇからどんな事があったかはわからねぇ。
だが、一人で抱え込んで苦しいなら俺がいくらでも聞いてやる。まだ整理がつかねぇなら今無理して話そうとしてくれなくても、お前が話してくれるようになるまで俺は待つよ。」

背中をさすり、もう一方の手で頭を撫でてやる。


「う…っ…、あ…りがと、ございます…」

ぐずっと鼻をすする音がする。

「おいおい…、いい大人が鼻垂らして泣いてんじゃねぇよ…」

背中をポンポンと叩いてから両手を名前の小さな肩に置いて顔を覗きこんでやると

「うぅ…、もぅ、見ないでください!」
と持っていたタオルで顔を隠し俺の胸に埋まる。

「……、おい…こんなとこ誰かに見られたらどーすんだよ…」


口ではそんなことをぼやきながら、俺の胸にすがり付いてくる名前がかわいくて仕方ねぇ。
このまま連れて帰ってしまいたい気持ちを抑え、もう一度名前の肩を掴んで自分の体を引く。

「いいか?俺たちは個人的にこうして会うことはしないって前に言った。覚えてるよな?」

腰を屈めて名前の視線の高さに合わせる。
名前も俺に涙目を向け頷く。

「だが、舌の根も乾かねぇうちにこうして二人で会ってる。お互い意図せずに。会ってはいけないと思っていても、この先俺たちはこうして引き寄せられる運命だって俺は思う。」


自分でもクサイ事言っていると思うがどうしても伝えたい思いが止まらねぇ。


「今までお前が抱え込んできた苦しみは過去に戻って軽くしてやることはできねぇ。だが、これからこの先辛いことがあれば俺がお前を抱き締めてやる。悲しい思いもさせねぇ。お前はもう一人なんかじゃねぇんだ。いつだって俺を頼ってくれりゃいいんだよ」


俺の止まらない思いに名前の涙も大きな瞳からとめどなく溢れ出て頬を伝う。

「前にも言ったが、いつでもいい。どんなことでもいいから俺に連絡しろ。お前の未来は俺が守る。約束だ。」


タオルで顔を覆いコクコク頷く頭を腕の中に寄せてもう一度ポンポンと頭を撫でてやる。
こいつの髪から香る甘い匂いに顔を埋めて抱き締める腕に力を入れると名前も俺の服を掴む。



この小さな肩にこいつは一体どんなものを背負って生きてきたのか。

俺が今に至るまでの数年、いろいろハメをはずしたりしていた時も、こいつはたくさんの涙を堪えていたのかも知れない。

だが、そんな我慢はもうさせたりしねぇ。
俺がこいつを必ず幸せにしてやる。
一人になんかさせねぇ。

名前の匂いを目一杯吸い込み頭をポンポンと叩くと赤らめた目で恥ずかしそうに照れ笑いを含めた顔で俺を見上げる。

「ふ、鼻の頭まで赤くなってんぞ」
「うう…、ほんとですか?こんな顔じゃ皆さんの前に行けない…」

「じゃ、俺がわからなくしてやるよ」

名前の肩に手を置いて俯く顔を覗きこむように腰を屈めて、赤くなった鼻の頭を舐めるように口づける。

「!!?」

反射的に俺から離れた名前の顔は全体真っ赤に。

「これでわからなくなったろ?」
「も……、もぉ〜!!何するんですか!」

にやりと笑って歩き出す俺の後を顔を真っ赤にさせた名前が拳を振り上げてついてくる。

俺の左腕をバシッと叩いて横を歩く名前の手が自然に俺の手と繋がり絡み合う。

人通りのない林道を抜けるまで、俺たち二人だけの時間が許されるまで、指を絡め合わせて二人で歩く。

これからずっとこの手を繋いで、こいつの隣を歩いていく。

俺がこいつとの未来を願うように、こいつも同じように思ってくれていたらいい…。

繋がる手に力を入れて包み込んだ。



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