平助の母親

□34.
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「っつーか、名前ちゃんの息子って!!」



組んでいた腕でバシッと胡座の膝を叩き、顔をガバッと上げグッと苗字に顔を寄せる。

「わわっ!?」

いきなり距離を詰めた新八の勢いに押され身を引いたが、それも勢い余って土方さんに受け止められる。

「しぃんぱち、落ち着け」
「おおお、落ち着けって…、これが落ち着いてられますかってーの!お前知ってたのかよ!?名前ちゃんに子供がいるって!」
「あ?あぁ、まぁ。つい最近だけどな」

まだ信じられない様子の新八。

「だ、だってよ…、近藤さんの学校って言ったら中学じゃなかったか?…そんな………、嘘だろ……?」
ぶつぶつ言っていたがやがて何かを思い付いたのかハッと顔を上げると

「そうか!わかったぞ!息子つってもあれだ!何らかの事情で親戚の子とか知り合いの子を名前ちゃんが養子に入れたとか!」
「いえ、私の実の子です。」

間髪入れずに答える苗字。

「ううっそだろ!?そんなジョーダン誰が信じるってんだよ…」
「あ、あの…、ほんとに冗談とかじゃなくて…」
「そんな…、じゃあ、ってことは…、名前ちゃん、…け、結婚してるのか…?」

「………、」


青ざめる新八の最後の問いに言葉を詰まらせる苗字。
言われてみたらそうだよな。結婚してるかどうかは別として、相手がいなきゃ子は産めねぇもんなあ…。
そんなこと一切気にもせずにアプローチ仕掛けてたけど…。

前に送ったときに交わした会話を思い出してみるが、苗字に子供がいるって事と両親の介護をしていたからどうのってことくらいしかこいつの口からはきいてねぇや。
ただ、俺が勝手にこいつをシングルだと思い込んでいただけだ。

「……、んじゃあ…、名前ちゃん、人妻って事かよ…」

答えないことを肯定と捉え、心底ガッカリといった様子で項垂れる新八。

人妻か……。そういや確か「今はドキドキとかときめきはいらない!」みたいなこと言ってたな…。
ありゃ一体どういう意味で言ったんだ?
ダンナがいるから?
いや、俺にはあの時の話の流れでいけば、色恋沙汰で浮かれたくないってニュアンスだったように思えたが…。

「はぁ〜、でもよ、こんなかわいい嫁さんもらえるなんて、はっきり言って名前ちゃんのダンナが羨ましいぜちくしょー!」
「だよなー。一体どんな男なんだ?」
「え…?え…っと、…あの…」

実際苗字の男の趣味に興味がわいて、新八と一緒になって聞いてみるが苗字は目を伏せ視線をさ迷わせる。

「なあなぁ、これからの参考のために、どんなところが良くて結婚したのか教えてくれよ〜」
さっきまで落ち込んでいた新八だったが苗字の好みを探ろうと目を輝かせて苗字からの言葉を待つが、答えたのは苗字ではなく土方さんの低い声だった。

「こいつにも言いたくないことだってあるだろ。あんまり聞いてやるな。あんまり聞き込むのは野暮ってヤツ、なんだろ?」

後半の言葉はさっき俺が苗字にいった台詞で、それを俺に視線をあわせて言う。

「……。まぁ、野暮だよな」
俺がため息混じりに眉を下げて笑うと土方さんも笑う。

「さ、俺はそろそろ近藤さんのとこにでも戻るとするか」

そう言って苗字の頭に手をおいてその手に重心を置いて立ち上がる。

「ぅおもぃっ!」

頭を上からぐいっと押され首をすくめる苗字。

「も、もぉ!土方先生ひどいっ!」

立ち上がり土方さんの後を怒りながらついていくが、追い付いた苗字を見下ろす土方さんと土方さんを見上げる苗字の横顔は二人同じようにいい笑顔で、
そこにはなぜだか誰にも入り込むことのできない空気が漂っているように見えた。


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