平助の母親
□33.
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「はぁ〜、飲みすぎた〜」
後片付けを済ませたついでに一人で御手洗いに寄ってから河原に戻る途中、ちょうど良い大きさの岩を発見して近付いてみる。
「わぁ、川の水もキレイ!」
持っていたタオルを枕がわりにうつ伏せに寝そべってお酒で火照った体を冷やすように両手の手首まで川の流れに浸す。
水と岩がヒンヤリとして気持ちいい。
そのまま目を閉じると水のせせらぎが心地よくて、眠たくなってきた。
「はぁ〜、いい気持ち〜」
むにゃむにゃとほろ酔い気分で呟けば、突然背中にバサッと何かが降ってきた。
「っ!?」
バチっと目を開けるとそこに見えたのは大きなエンジニアブーツ。
そこから視線をあげてすらりとした足を辿っていくと、腕くみをして仁王立ち姿でわたしを見下ろす土方先生がいた。
「あ、土方先生…」
にこっと笑ってみたけど、多分酔ってるからにへらっとしただらしない顔になってたかも。
そんなわたしのふざけた顔を見て、土方先生の纏うオーラがみるみる暗黒度を増していく…。
「あ、あの…、何か?」
怒ってます?と首を傾げてみればついに土方先生の怒鳴り声が炸裂する。
「女がこんなとこで無防備にねてんじゃねぇ!!」
先生の怒鳴り声の勢いに飛ばされそうになるも、「ね、寝てません!」と言い返す。
「馬鹿、そういう意味でいってんじゃねぇよ。ったく…。」
ため息をつくと幾らか暗黒オーラが和らぎ、わたしの隣に胡座をかいて座りわたしの背中にかけてくれたさっきまで土方先生が着ていたパーカーを背中からおしりにかけてかけ直してくれた。
「もっと人目を気にしろ」
隣に先生が座るから、わたしも起きて座ろうと思ったのに、丁寧にパーカーを掛けられてしまい起き上がれなくなってしまった。
そのまま寝そべってさっきと同じように水に手を入れて、水面を見つめていると
「なにやってたんだよ、こんなところで」と小さく呟くように訊ねられる。
「あ、えと…。水が気持ち良さそうだったから…。酔い醒ましで…」
「ったく…。女が一人で酔っぱらってこんなとこでねてんじゃねぇよ…」
ため息混じりにまた同じことを言われ
「だから寝てませんって」とわたしも同じように言い返す。
「寝てなくてもだ。足くらいしまっとけ!」
足?今日はデニムのショートパンツに厚目のアーガイル柄のタイツにブーツ。
足なんて一ミリも出てないけれど?
理解できてないわたしの表情を見て、再び大きなため息をつく先生。
「なんでもいいからしまっとけ!」
最後はお決まりのように怒鳴られる。
むぅ。すぐ怒鳴るんだから。
まぁ、でもきっと冷やしちゃいけないってかけてくれたんだよね。
「ありがとうございます」
とりあえずお礼を言って先生の顔を見上げると、一瞬目を丸く見開いたみたいだけど、ふっと表情を和らげて、
「わかりゃいいんだよ」
とわたしの頭をくしゃくしゃっと撫でてくれた。