平助の母親
□29.
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☆★歓迎!近藤さま御一行!!★☆
なぁにが…。
トシも…。
たまには…。
ゆっくりだっ!?
「話が違うじゃねぇか!近藤さんっ!!」
両手、両肩に担いだ荷物をだりゃぁっと足元に投げつける。
「あぁ!いかんトシっ!!もっと大切に扱ってくれ!」
投げつけられた荷物に駆け寄って俺を見上げるのは近藤さん。
これが仮にも学校の校長である人のすることか!?
「もっと大切に扱かわれるべきは、近藤さん、あんただろ!嫁にいいように使われるのも大概にしろよ!」
一体どんな弱味握られてんだ!と投げつけた荷物を拾い上げ吐き捨てるようにジロリと近藤さんに視線をやると、
「そ、そんなこと言わんでくれよ…」
と地べたにへたりこみ項垂れる。
「ったく!この荷物運びこんだら俺ぁ別行動させてもらうからな!」
「ま!、待ってくれ!俺を一人にしないでくれぇ〜!」
泣きつく近藤さんを引きずり、ホテルのロビーに到着すると、ロビーの一画にあるソファーで屯う奥さま軍団。
通称マダム組。
近藤さんの奥さん、ツネさんをリーダーに、なんかあるとすぐに集まって豪遊パーティを開催する何とも傍迷惑な軍団だ。
いつもは10人で集まるマダム組だが、今日は連休とあって各々の家族と海外に行ったり何だりでいつもより少ないとはいえ六人のマダムとその子供達、総勢約15人分の荷物を俺と近藤さんのたった二人で運び込む。
……、俺たちが荷物を運び込んだにも関わらず雑談と言う名の無駄話をやめようともしねぇ…。
「今日参加しなかったあの奥さま、さっきメールでこんな写真送ってこられたのよ?」
「あらやだ、自慢〜?」
「こんな連休に態々込み合う場所に行ったりして、何が楽しいのかしら、ねぇえ〜?」
「ほぉんとよねぇ〜」
オーホホホホ!
……。
仲がよくて集まってる訳じゃねぇのか。
居ないときになに言われるかわかったもんじゃねぇな。
知りたくもねぇ醜い世界の住民達から視線を反らしさっさとずらかろうとてきとーに置いた荷物から遠ざかる。
近藤さんは俺が置いた荷物を一つずつ几帳面に向きを揃えてホテルのフロントにチェックインの手続きをしにいく。
ふらりとロビーの南側に面した壁一面の窓へと足を向ける。
小高い丘に建つこのホテルの窓から見えるのは広いゲレンデからゴルフ場、林を挟んでこの丘の麓には川が流れその沿岸ではキャンプを楽しむいくつかの集まりがそれぞれに楽しむ姿。
割りと遠くないその沿岸の中に俺は幻でも見たのか、今一番俺の心を満たしてくれる存在の姿を見つけてしまう。
ウソだろ…。
こんな話があるか…。
だが、俺の視線は一人を写しこんだままそこから離すことができない。
「トシ?これから部屋へ行くが…、どうかしたのか?」
窓に手を掛けて動かない俺の視線を辿る近藤さんにハッと気付いて慌てて窓に背を向ける。
「い、いや、なんでもねぇよ…。部屋行くんだろ?さっさと行こうぜ」
微妙に声が震えちまったが何とかその場を後にする。
もう会わねえって誓ったばかりだってのに…。
あいつの姿を見つけただけで…。
くそっ…!
俺の決意はこんなにもブレ易いもんだったのか…。
なあ、名前…。
俺たちは意図せずとも、こうしてこんな辺鄙な場所で再会するほど、強い絆で結ばれているんだ…。
やっぱりお前と会わねえなんて無理なんだよ。
お前とのことをどんなに深い記憶の底にしまいこんだって、お前がどこにいても、
俺は必ずお前を見つけ出してしまう…。
お前なしで生きていくなんて考えられねぇくらい、俺の意識がお前を探しだしてしまうんだ…。