平助の母親

□27.
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「おはよーございまーすっ!」

いつも出勤するときとは違う服装でショールームの裏側、駐車場へ向かって歩いていると駐車場に数台の車と荷物を詰め込んでいる職場の同僚の姿が見えたので、まだ少し距離が離れていたけれど大きな声で朝の挨拶を叫んでみた。

「おぉーーー!名前ちゃん!こっちこっち〜!」

永倉さんが一番に気がついてくれて大きく手を振って答えてくれる。

「おはよ、苗字。ちゃんと起きれたみたいだな」

いつのまにかわたしの横を一緒になって歩いていたのは原田さん。
彼の手には大きなクーラーボックス。

「原田さん、おはようございます。それ、すっごい大きいですね…」

通常の二倍の大きさはあるクーラーボックスを涼しげな顔で持ち運ぶのを見て、中身は空なのではとさえ思ってしまう。

「ははっ、こういうイベントでは飲まなきゃ損って意気込む奴等ばっかりだからな」
ま、おれもそのうちの一人なんだが。
と嬉しそうに微笑む。

大方の荷物をそれぞれの車に積み終わり、参加メンバーの輪に入り込み、誰がどの車に乗るかをくじで決める。


「頼む!神様!俺と名前ちゃんを同じ車に!!!」

両手を組んで額にくっつけ天を拝む永倉さん。

「うぉーーーーーりゃーーーっ!これだぁあーーーーーっ!!!」

永倉さんが引いたくじには@の文字。
1号車という意味らしい。
1号車は原田さんのマイカーで、運転手は原田さん。
今回車を提供する人はくじ引きの対象にはならない。

「なぁんだ、俺の車の第一乗客は新八か。汚したらただじゃおかねぇからな」
キレイに乗れよ。と笑いながらいつもの二人のやり取りをみんなが微笑みながら見守る。

次々にくじが引かれ、残るは原田さんの1号車か島田さんの3号車。
対する引き手はわたしとサービスフロントの山崎さん。
最後の二本を二人同時にそれぞれ選び同時に引き抜く。

「頼む!名前ちゃん!!!!」

永倉さんの叫びと共にわたしに集中するみんなの視線。
紅一点というだけあってみなさん気になる様子。

「どっちだ?」

原田さんも自分の車に乗るのが誰なのか気になっているみたい。

「えっと………わたし…」

口を開いて自分の引いたくじの結果を言おうとしたとき、
スッと風神が舞うように山崎さんが横切り、原田さんと永倉さんの前に進む。

「俺が1号車です。よろしくお願いします。」

いつもと変わらないパシッと空気を割るような凛とした声で簡潔に結果を述べると原田さんの車の荷台に荷物を積み込む。

「あ、お、おぅ……。よろしく…。」

あっけにとられる原田さんと地面に膝まずき盛大に嘆く永倉さん。

「あ゛〜〜〜!!!ま〜じ〜か〜よぉ〜〜〜!!!」
地面に額が付くくらいの姿勢で膝まづき、ガンガン駐車場に拳を叩きつける。

「さ、それじゃあ苗字さん、こちらへ」

島田さんに荷物を荷台に乗せてもらって後部座席にすすめられる。

「楽しい旅になりそうだねぇ」
ほくほく笑顔の井上部長。
「はい!よろしくお願いします!」
笑顔の島田さんと井上部長につられてわたしもニッコリ 。


「あ゛ぁぁ〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!」
地面から這い上がって手を伸ばす永倉さんの叫びは島田さんの閉めるスライドドアによって遮られ窓から見えたのは地面にのたれ死ぬ永倉さんの姿と、それを見下ろす原田さんの姿だった。




原田さんの車を先頭に述べ4台の車を列ねて走り出す。
わたしの乗った3号車は運転席に島田さん、助手席に井上部長。
そして後部座席にわたし。
4台の車それぞれに3人ずつのゆったりとした人数配置。

島田さんと井上部長の会話にそれとなく参加をしながら、自分のくじ運にほっとため息をつく。

この二人の車でほんとによかった。
いくら親睦を深めるイベントだとしても、普段の業務で全然会話のないサービスの人ばかりの車にいきなり一人で乗り込むとか、ちょっと無理があるし、ましてや原田さんの車なんて・・・。

原田さんに告白された日のことを思い出す。

あんなに真剣に見つめられて告白されて・・・。
それ以来気まずくなったりしないのはきっと原田さんがそうならないように普段通り接してくれてるから。
それにわたしももういい大人な訳だから、いちいち変に意識したりしないようにいつも通りに業務をこなすようにしていた訳です。

ただ、二人っきりになったりしたら…。
と思うと、やっぱり少し自信がない。
原田さんは優しそうに見えて、実はものすごく押しが強いんだってわかったから。

さりげない優しさとか素敵な言葉に隠された、狙った獲物は逃さないという込められた空気に押されて跳ね返すことができなくなる。
流されちゃいけない!って相当の覚悟をもって対峙しないと、簡単に弱いところに漬け込まれてしまうんだ。

永倉さんも乗ってるとはいえ、あの車に乗ることになったら油断はできない。
きっと永倉さんは道中グースカ寝てしまうに決まっているから。

よかった。ほんとによかった!
あまりしゃべったことのない山崎さんに心から感謝をして、いまだに続く島田さんと井上部長の会話に相槌をうちながら満面の笑顔を隠せないわたしなのでした。
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