平助の母親

□24.
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「お前がかわいいから、俺は普段の俺じゃいられなくなる」

切ない瞳と、低く、甘い囁くような優しい声に心臓が震える…。

「一緒にいてこんなに穏やかな気持ちになれるのは、おまえしかいねぇ」

先生の視線がいっそう真剣なものに変わる。

さっきの悪魔のようなにやりとした笑みから一転、急に変わった先生の態度についていけず、頭の中はぐっちゃぐちゃ。

「せ、先生、何言って…」
私の今出せる精一杯の言葉ごと塞ぐように重ねられる唇。

「!?」

最初は押し付けるだけの口づけで、
それから一度離れてすぐにまた重ねられ
何度も何度も啄むように重ねられる。

その優しさに、心地よさに、次第に頭の中が蕩ける感覚を覚える。
先生は優しいキスを止めると唇をふれ合わせたまま話し始める。

「先生…」

「……、俺とお前は教師と保護者、その事実は認めざるを得ない。だが、俺だって人間だ。人を好きになる気持ちは誰にも否定することはできねぇはずだ。」

私の左側に置かれていた手を肩に置き、そのまま髪を掬いながら項に差し込む。
そのくすぐったさにゾクッとする。

「俺は一人の人間として、お前に惚れた。誰にも渡したくねぇし、誰にも邪魔されたくねぇ」

先生がしゃべる度に唇同士が擦れあってドキドキが止まらない。

「お前といると安らぐんだ」

その言葉に先生も私と同じ事を感じていたんだと想う反面、否定的な言葉が口をついてしまう。

「あの、でも先生…」

私が「でも」と発したとたんに塞がれる唇。
さっきとは違う強さで吸われ、呼吸が止まる。
「あっ…!」
離された唇にジンと感じる痺れ。
何も言えない私に先生は続ける。

「お前が言いたいことはわかってるつもりだ。だが…」
そこまで言うと先生は少し考えるように口を閉ざす。

「……?」

「俺のこの気持ちは誰にも変えることはできねぇ。周りがなんと言おうが俺はお前に惚れたことを間違いだなんて思わねぇ。」

「お前と一緒にいたいんだ」

切なげな声と共にぎゅっと抱き締められてしまえば私の両手は戸惑いながらも先生の背中に回ってしまう。

「せ、先生…」
きゅっと手に力が入ってしまう。
「名前…」
左耳から痺れるほど切なく甘い先生の声。

「先生…、わたしも…、わたしも先生といると、心が安らぎます」

抱き締められて、少し苦しい体勢のまま呟けば少しだけ抱き締める力が弱められる。

「先生と初めてうちで夕飯を食べたときには、もうきっとこの気持ちを感じていたんだと思います。」

私の言葉を黙ったまま、
先生は私を抱き締めたまま聞いている。

「先生が隣にいて、それがずっと前から当たり前だったような感じがして…。まだ会って間もないのに…。」

「会って間もなくて、先生のことなんにも知らないのに、こんなに一緒にいて安心できるのって、何でなのかな?」

自分でも理解できない気持ちがつい言葉になってしまう。

「先生のいろんな表情を見ることができると、すごく嬉しくなるんです。先生の仏頂面も、驚いた顔も、優しい笑顔も、もっと、いっぱい見てみたいんです。」

抱き締める力がギュッと強くなったかと思うと両肩に手が置かれ密着していた体が離れる。

「俺だって…、お前が働く姿を見たときから…、おれはおまえしか見えなくなっていた。仕事が楽しくて仕方ねぇってくらいキラキラしてて…、かと思えばぼさっとした格好で学校に来やがって…。」

「平助のことを思ってべそかくお前も、オレのことかわいいなんて言い出すお前も、全部まとめてお前が好きだ。」

そう言って先生は優しく微笑んで頭を撫でるように髪を掬う。

「お前のすべてを愛したい」

重なる唇に今度は驚きはなかった。
先生の愛しさが込められたキスは私のすべてを拐っていった。


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