平助の母親

□23.
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「…おじゃましまーす」

先生には聞こえてないだろうけど、再度同じ言葉を口にして玄関を上がる。

廊下を突き進んで入った部屋は、いかにも男性の独り暮らしといった感じのリビングルーム。
大きなテレビとオーディオ廻りが目立つくらいでうちみたいに生活感溢れる収納家具なんかはないスッキリしたお部屋。

「まぁ、テキトーにその辺座ってくれ」

ぽーっと入り口に突っ立っている私に先生が声をかけてくれる。
突っ立っていても仕方ないので、どの辺に座っていいのか、キョロキョロしながらおずおずと部屋のなかに進む。

「挙動不振だろ。」

先生が私の後ろから背中に手をあてて大きなソファーに座らせる。
座面の奥行きが広くてちょっと腰かけただけじゃ背もたれまでの距離が遠いこのソファーはほどよい固さですごく座り心地がいい。

「ま、寛いでいてくれ。朝飯でも用意してやるよ」

そう言ってカウンターキッチンへと向かう先生に、私もソファーから立ち上る。

「あ、じゃあ私もお手伝いします。」
「あぁ?いいよ狭いし。」
男の勝手場に女が入り込んでくんじゃねぇよと シッシッと手で追い払われてしまった。

渋々元いたソファーに腰かける。
座り心地のいいソファーは手触りも抜群で思わず背もたれに背中を預けようと深く座り込む。

背もたれに背中を預けると座面の奥行きが普通のソファーの二倍くらいはあるんじゃないかと思うくらい長い。
足を伸ばすと座面の端が私のふくらはぎまである。

いいなぁ、これ。こんなのテレビの前にあったら私だったらゴロゴロしちゃって絶対そこからどかないよ。
一人で占領しちゃう。

いいなぁ〜、これいぃな〜と自然と足をパタパタさせてしまう。
するとキッチンの奥から先生がこちらを見てくくっと笑う。

「なんだか楽しそうだな。」

カウンターキッチンから覗く先生の瞳がやけに優しげで、私まで嬉しくなる。

「このソファー、すごくいいですね!」
座面を撫でながら言うと先生は得意気に微笑む。

「フランス製だからな」

フランス製かぁ、フランス製品と聞いただけでなんだかおそれ多いもののように感じて座っているだけでやけにありがたみを感じてしまう。

「フランス製なのですね…」

私の呟きは、先生に向けられたものなのか、はたまたソファーに向けられたものなのか…。

部屋をもう一度見回してみると、存在感のあるテレビやオーディオ製品はどれも一流メーカーのもので揃えられている。

必要なものはとことんこだわったもので設えて、不要なものは一切置かないという先生のこだわりのようなものが感じられる。

「………。」

部屋を見回し黙っているとチンとパンの焼ける香りと共にトースターの音が鳴る。
やっと慣れてきたたばこの臭い以外の芳ばしい香りに背もたれから背中を離してキッチンを見ると先生もこちらを見て笑う。

「なんだ?もうちょっと待ってろ」
フッと苦笑いの様な笑みを浮かべたあと視線を下げて作業を続けた。
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