平助の母親

□22.
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「何度も言うけど、戸締まりだけはしっかりしろよ!?」

玄関先で大きな荷物を肩からさげた平助が忠告する。
昨日の夜からもう何度も聞かされたセリフ。

「もぉ、わかってるよ…」
「それから、出かける前と寝る前には必ずガスの元栓もしっかり確認!帰ってきて家がなくなっちゃってたらシャレになんねーからな!」
シュビっと人差し指をさしてキッと鋭い眼差しを向けられる。

「は、はい、気を付けます。」
「それから…」
「まだあるの〜?」

うんざりする私に、平助はにかっと笑って

「最後の忠告!かぁちゃんもしっかり連休を楽しむこと!」

そういって片手を挙げて走り出す。

「気を付けてね!怪我しないようにね〜!」
家の前の道路に出て大きく手を振ってお見送りすると平助も走りながらこちらを振り返り大きく手を振り返してくれる。

「かぁちゃんも、左之さんによろしくな〜!」

平助の姿が角を曲がるまで見送り、姿が見えなくなると自然と出てしまうため息。

はぁ、行っちゃった…。

平助が行ってしまったとたんに襲う虚無感に、思わず下がる視線。
くるりと振り返り家へと帰ろうとすると目の前に見覚えのある車のボンネット。

え…!?

驚いて顔をあげると我が家の門の前にもたれて腕を組んでいる土方先生がこちらを見ていた。

「えっ!せ、先生!どうしたんですか、こんな朝早くに…」

驚いて先生に声をかけると、そんな私の顔を見た先生も少し驚いた様子だった。

「いや、昨日渡し忘れた物があって…、というか、お前…、名前だよな…。メガネかけてて一瞬別人かと思ったぜ」
「あ〜…。ちなみにノーメイクですから…すみません…」
お見苦しいものを見せてしまってとうつむけばくくっと聞こえる先生の笑い声。

「別に謝るこたねぇだろ。変な奴だな」

うぅ…、変なやつって言われた…。

「て、いうか、先生こそこんな朝早くに連絡もなく来るなんて!」
よっぽどおかしいですよと反論しようとするとフッと笑って
「サプライズだよ」
と一言で片付けられてしまった。

「もぉ、そんなサプライズいりませんから!連絡くださればもっとちゃんとしといたのに…」
ぶつぶつ言う私と
「ま、おまえの本当の姿を見られて、こっちがサプライズだったみたいだけどな」
とニヤリと笑う土方先生。

「んもぉ〜!で!?渡し忘れってなんですか!?」

これ以上ひどい顔を見られたくなくて早く用件を済ませて帰ってほしくてそう言うと、先生は助手席のドアを開けて車の中でなにかを探しているようだったけど、彼にしては珍しくはたっと顔をあげて何やら固まっている様子。

「あの、どうかしました?」

先生の背中から声をかけると、すっと折っていた腰を伸ばして立ち上がり振り返る。

「わりぃ、早く来ようと思ってたら肝心のもん持ってくるの忘れた」

ポリポリと頬を掻く先生。
これもレアだなと思う前に、きっと私のメガネはずりお落ちていたに違いない。
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