平助の母親

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名前を助手席に乗せ来た道を折り返す。

「先生、あの、ごちそうになってしまってすみませんでした」

名前は申し訳なさそうな声で言うと頭を下げる。

「そういう時はすいませんでしたじゃなくてありがとうって言っときゃいぃんだよ」

すると名前は「はい!ありがとうございます」と、とびきりの笑顔を見せた。

名前の家の前につき家の様子を窺うと電気はどこもついておらず、まだ平助は千鶴との外食から帰ってきていないようだ。

「先生、今日はごちそうになって、家まで送っていただいて…。本当にありがとうございました!」

玄関の前で腰からペコリと丁寧に頭を下げる。
「あぁ、いいってことよ。一人で食うより誰かと食った方がうまいんだろ?」
「ふふ、そうでしたね」

いつか千鶴が言っていた言葉を借りていうと、名前もそれが思い浮かんだのか淡い笑みを浮かべる。

「じゃ、平助が帰ってくる前に帰るとするか。」

名前の頭にポンと手をおき車へと踵を返す。

「先生!今日はほんとにありがとうございました!」
「ふ、もういいよ、さっさと家入れ。」

車に乗り込みキーを回す。
俺の車が角を曲がるまでバックミラーに映る名前。
いつまでも視界にとどめておきたいと思う。

大通りに出て赤信号で停車して、ふと何気なく後部座席をみるとそこには放り投げた鞄とレンタルショップのDVD。

名前に渡してやろうと思っていたのにすっかり忘れちまった。

シートに背を戻し、フッと出たため息は自分の失態に対する呆れのため息なんかじゃねぇ。
信号が変わると同時にアクセルを踏み込み明日のことを考え車を飛ばして家路についた。
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