平助の母親

□21.
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「先生、ここ常連さんなんですか?」
おしぼりで手を拭き先生に顔を向けると「まぁな」とそっけなく答える先生。

ふぅん…、と手を拭きながら店内をぐるっと見回してみる。

広くはないけれど、カウンター席の他にテーブル席と奥にはお座敷もある。
幹線道路をそれて、さらに一本入った住宅地に構えるお店とあって、所謂知る人ぞ知るといった店構えの居酒屋さん。
まだ食事時のピークを迎える前なのか店内にいるお客はまばら。

「よく来るんですか?」
ぐるりと一回り見回したあと、先生に訪ねると、
「最近はあんまり来てねぇな。」
とタバコをくわえる。
先生のくわえるタバコを見て瞬時に顔がひきつってしまった。
そんな私の変化に気がつかない先生ではない。

「あ?なんだ?」
私の顔の変化には気がついたけれど、どうして私がそんな顔になったのかという理由までは思い付かないみたい。

「あ、いえ…。なんでも…」

ここでタバコ吸わないで!なんて言えないし、居酒屋さんで禁煙って、大きなお店なら分煙とかあるだろうけど、ここみたいに個人でやっているようなお店でそんなわがまま言えない。
しかも私みたいな一見さんが。

横から煙るタバコの臭い。
お茶を飲むふりして湯飲みに顔を突っ込むようにしてなんとかごまかす。

「ふっ、湯飲みに顔埋まってんじゃねえか」
「このお茶おいしくて」
湯飲みに口をつけたまま答えると
「ぶっ!なんだよ、普通の茶だろ?」
タバコを持った右肘を机について大きく肩を震わせ、肩をすくめて笑う先生。

「あぅ…」

先生の右側に座る私はもろに煙の被害に襲われる。
鼻から入ってくる煙の臭いと服や髪に付着しているであろうしばしば感に、耐えられず次第に眉間に力が入ってしまう。

「おま、うまいっつって眉間にシワよせるやつがあるかよ!」

先生がそう言ったところでカウンター越しに手が伸びてきて女性が先生のタバコを取り上げる。

「トシ、あんたも鈍いわねぇ」
取り上げたタバコをカウンターの下に持っていき、流しになっているであろう場所に処分する。

「あ?何すんだよいきなり」
「何すんだよじゃないわよ。この子の顔見て気が付かないの?」
そういって二人が一斉に私の顔を見る。

「あぅぅ…」
二人から向けられる視線が痛くて湯飲みに隠れる。

「あ?なんだよ」
「本当に気づかないなんて!ごめんなさいね、この子ヘビースモーカーなの、知らなかった?」

タバコを処分してもらった事で幾分かマシになったから湯飲みから顔を離す。
二人の視線を受け、なんだか気恥ずかしい。

「すみません…。」
肩をすくめて視線が上げられない。
「いいのよぉ、謝る事ないわ!連れてきておいて何の配慮もないこの子が悪いんだから!」

そういって女性はお通しのお料理をカウンターに乗せた。
「さ、どうぞ!ジャンジャン持ってくるからいっぱい食べてってね!」
先生が口を挟む間をあたえることなく言うだけ言ってまた暖簾をくぐって行ってしまった。


「ったく…」
暖簾の先をにらんでため息をついていたけれど、すぐに目の前のお料理をカウンターから下ろして私との間に置く。

「さて、食うか」
割り箸を二つ取ってひとつを私に差し出してくれた。
「あ、ありがとうございます」
お箸を受けとりお礼を言う。

「悪かったな、タバコ」

その言葉に、弾かれたように先生の顔を見ると先生は眉を下げ、困ったように微笑んでいた。

あ、そんな顔もするんだ…

初めて見る土方先生の顔に思わず見とれてしまっていると、先生の手がゆっくり伸びてきて私の眉間を親指で撫でた。

「さっきの顔、すごかったぜ?」
にやっとわらって人差し指でつんっと押される。

「タバコが嫌なら最初から言ってくれりゃいいのによ」
「す、すいません。」
また肩をすくめて下を向いてしまう。

「だからお前が謝ることじゃねぇってさっきも姉貴が言ってただろ?」
その言葉にハッとして先生の顔を見る。
「えっ!?お姉さん!?」

驚く私を見ながらお通しのお料理が入った口をモグモグしながら頷く先生。

………、なんかかわいいんだけど…。
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