平助の母親

□20.
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こぼれる笑みを隠そうともせず、俺の隣で棚に並ぶDVDを手に取る名前。

こいつがこんなに嬉しそうにしているのは…。

自惚れじゃない。
さっきのこいつの言った言葉が聞き間違いじゃなければ、たぶん俺と同じように、
もっとお互いのことを知っていきたいと思っているはず。




「あ、これも見たいと思ってたやつ!」


そういって次々とDVDを手に取る名前。



「おいおい、一体何本借りてくつもりだ?そんなにいっぺんに見れるのかよ」


この連休、全部テレビの前で過ごす気かよ?と思わず聞くと棚からDVDを取る手が止まる。



「あ、…と、…えっと…。まぁ………」



…………。



「つまりヒマって訳だ。」


思わず口端が上がった言い方になってしまった。

するとさっきしどろもどろに揺れていた視線が俺の視線とまっすぐぶつかる。

「なっ!?言っときますけど、連休中ずっとヒマって分けじゃないんですからね!ちゃんと出掛ける予定だって入ってるんですから!」



ぷいっとそっぽ向いてしまう。
出掛ける予定っていうとアレか…。
さっき道場で千鶴から聞いた話を思い出す。



「キャンプに行くんだってな。」



俺がそんなことを知ってるなんて思いもよらない名前は目を見開き、
「えっ!どうしてそれを?」と口をパクパクさせて驚いている。



「さっき千鶴が俺に話して来てな。会社の男連中とキャンプだなんて心配だって言ってたぞ。」



中学生に心配される親とかってどうなんだよ。と見下ろす。
すると名前は何か思い当たることがあったのか右手を顎にあて考える様子。



「やっぱり千鶴ちゃん…」



そう呟いたきり黙り込んでしまった。
千鶴の心配を名前なりに気づいているようだ。

俺からこんなこと聞いてもいいのか…。
開きかけた口を一度閉じ、名前の抱えるDVDを取り上げる。



「あっ、えっ?」



考え込んでいた顔を上げ俺を見上げる。



「こんだけ借りりゃあ充分だろ。行くぞ」


慌てる名前をおいてカウンターへと向かった。





「あ、あの!先生、それっ!」



店から出て駐車場へ向かう俺を追いかけて来る名前。
リモコンキーを押すと解錠を知らせるハザードが点灯する。

運転席へ足を止めることなく歩を進めながら肩越しにチラリと後ろを振り向く。



「なんだ、俺になんか用か?」



運転席のドアに手を掛け、俺の横まで駆け寄ってきた名前を見下ろすと



「なんだ、って!あの、先生に用じゃなくって!それっ!そっち!」



俺の手に持つDVDを指差す。



「あん?」

「い、いや…、あん?じゃなくて…!それ、私が借りようとしてたのに…」

「うるせえな。もうこれは俺が借りちまったんだよ。文句あるか?」



ドアを開け、荷物を車の中に放り込む。



「も、文句あるかって…」


それ以上言葉がでない名前の肩を押して助手席側へとつれていき、助手席のドアを開ける。



「あ、あの先生?」


開いたドアの間に立ち俺を見上げる。


「送ってく。いいから乗れ」

「えっ!?…あ?わぁっ!?」



強引に名前を押し込みバタンとドアを閉める。
車の中で大きな目を見開いて何か言っていたようだがなにも聞こえない。




「ちょっと!先生!なんなんですか一体っ!?」



運転席のドアを開けた瞬間、開口一番怒鳴る名前。



「…、ったく、うるせぇな、なんだよ」



名前の顔も見ず、キーを差し込みエンジンを吹かす。



「な、なんだよって、それは私のセリフです!なんなんですか!」



チッと舌打ちをして、助手席側の窓へ上体を寄せ右手を伸ばす。
俺の体が名前を覆い被さるような体勢になり、一瞬にして名前は黙り、体を固く縮こまる。



「!!?」

「車にのったらまずはシートベルトだろうが」



ニヤリと名前の顔の前で笑ってやると真っ赤になった顔で目を白黒させる。



「〜〜〜〜!」



見てて飽きない名前の顔を見ながらカチッと助手席のシートベルトで拘束する。



「ちったぁおとなしくしてろ」


名前の耳元に顔を寄せて言ってやると名前は声にならない悲鳴を上げて両手で思いっきり俺の胸を押し退けた。
まぁ、名前の力くらいではびくともしなかったが、あえて離れてやる。


「な、な、な…」


完全に平常心を失ってしまった名前を放っといて、自分のシートベルトを装着するとギアを入れアクセルを踏んだ。
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