平助の母親

□20.
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明日から、ついにあの家での一人暮らしが始まる。

なんてちょっと大袈裟な言い方だけど。


仕事帰り、電車から降り駅近くのレンタルショップに足を運ぶ。
いつもなら電車を降りたらそのまま自宅近くまで走るバスに乗る列に直行で並びに行くとこなのに、今日はちょっとした寄り道。


一人で過ごす時間なんて、月曜日の定休日に平助が学校へ行ってる間くらいしかいままでなかったから、どうやって過ごしたらいいのか全く思い付かない。
これといった趣味がある訳でもなく、
かといって街へ出てショッピングなんてのもなぁ…。
やっぱり平助が言った通りDVD三昧になっちゃうのかな。

そんなことを考えながら新作DVDの陳列棚を物色する。

あ、これもうDVDになってるんだ。

つい最近話題になっていた映画を発見して手を伸ばす。
話題作だったこともあり、棚に残っているのはラスイチ。

だけど伸ばした手がDVDに触れる前にお目当ての物はさっと右側へ持っていかれ 、驚いてそちらを向くとそこには平助の担任、土方先生が立っていた。



「あっ…」



DVDを持っていかれた事と、そこにいたのが土方先生だったことに驚き声が出てしまう。
土方先生は相手が私だったことを最初からわかっていた様子で、
背の高い彼からジロリと見下ろされなんだか萎縮してしまう。

えっと、なんだろ…。機嫌が悪いの…
かな?
とりあえず挨拶しておこうと小さな声で「こ、こんばんは…」と言ってみる。
…、どもっちゃったけど…。

すると土方先生は不穏な空気を纏ったままニヤリと口の端をあげると低い声で


「子供ほったらかして寄り道とは、いい度胸だな」


と一歩わたしに近づいてくる。



「あ、あの、き、今日はその…、平助が行ってこいって…」



なぜか一歩ずつ追いやられ、わたしはしどろもどろで後ずさる。



「それに…」



わたしの背中が壁際の棚にトンっと当たる頃、土方先生は言葉を続ける。



「それに、あの日の翌朝、お前のケータイに俺の番号、履歴残したはずだが。気が付かなかったのか?」



壁際に追いやられて逃げ場のないわたしを両手で囲う。



「えっ!?あ、いえ!ちゃんと登録しましたよ!ホントすぐに!」



自分でも驚くほどの早口で答える。
胸の前で振る両手もかなりの速さで。

そんな焦りっぷりのわたしを見て、まだ信用していないような目付きの土方先生。



「ほぉお、んじゃあなんでこの数日の間、一度も連絡してこねぇんだ?」



わたしを両手の檻から解放してDVDを持ったままの腕を組む。
そんな教師が生徒にお説教しているような仕種をされ、ホントに生徒になった気分で先生の質問を今一度頭の中で繰り返して、



「……??」



キョトンとするわたし。

「……………。」


呆れた顔でわたしを見下ろす土方先生。



「あ、あの……。連絡って…、なんで?」



おろおろしてるわたしを見て、盛大なため息を吐きかけられ、
土方先生は本当に呆れて脱力した感じでガックリと項垂れる。



「お前なぁ…。普通、着信登録しといてくれって言ったら、登録しときましたくらいの連絡寄越せってぇの。」



ハァ…、とまたため息をつかれでこぴんされた。



「あぅ…、す、すみませんです…。」



そんなに痛くなかったけれどまさかでこぴんされるなんて思ってなかったから、とっさに打撃を受けたおでこを両手でさすって涙目を伏せる。

そんなわたしを見て、プッと吹き出す土方先生。
その声に顔を上げると、私から顔を背けて口許を大きな手で覆って小刻みに肩を揺らしている。



「なっ!ひ、土方先生!ヒドイ!」


笑いすぎです!と文句を言うと



「いや、わ、悪ぃ。すまねぇな…。」


とか言いながら、まだ込み上げてくる笑いを堪えている。


んもぉ!



「でも、先生、前に会ったとき、履歴残しておくから登録しといてくれって言っただけで、連絡しろだなんて言ってませんでしたよね?」



ぶすっとした声で反撃してみると、


「あぁ?そうだったか?」と少し収まった様子でこちらを向く。



「そうですよ!」

「そうだったか?」


ふむ、といった感じで斜め下に視線をやる。


「そ、そうでした…よ?」

「ほんとに?」


少しニヤリと口の端をあげてまたわたしを見つめる。


「ほ、ほん…とに」



だんだん顔を近づけながら聞いてくる土方先生に何度も同じ事聞かれるとだんだん自信がなくなってくるのは何故なんでしょうか……。


ち、近い!
背中を限界までのけ反らせて、近づく先生の顔を避ける。
いよいよ土方先生の顔が目と鼻の先というところまで来ると、先生は悪魔のようにニヤリと笑い、ぱっと離れる。



「ま、そういうことにしといてやる。」



そういってDVDをぽいっとわたしに放り投げる。


「わっ、わっ、わわっ!」


あわててそれをキャッチすると、背中越しににやっと笑ってる。



「も、もぉ!なんなんですか!」



ぷいっと先生に背を向けて、もとにいた場所まで戻って、DVDの中身だけ抜き取り、パッケージを棚へ戻す。
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