平助の母親

□19.
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放課後、大型連休前日とあって剣道部員は練習を早めに切り上げて道場の清掃に専念している。

今日は俺が道場に姿を現せたせいか、生徒たちも私語を慎み、真面目に取り組み予定より早く終わりそうだ。

その様子に合わせてマネージャーの千鶴も大急ぎで部員に配るおしぼりの用意を済ませ道場に戻ってくる。



「千鶴、お前は少し休憩しろ。そんなに焦らなくても平気だろ」



腕組みして横目で言えば「は、はい!」と素直に返事をして俺の横に立つ。


「座っとけ」


前を見て部員の動きを見ながら千鶴に声をかけるが千鶴は首を横に振り、
「いいえ、大丈夫です」と答える。

しばらく無言で二人立ち並んでいると千鶴がふと話しかけてきた。




「明日から、五日間も休みなんですね。土方先生はどこか出掛けられたりするんですか?」


俺との無言に耐えかねたのか、それともなにか言いたいことがあるのか…。
千鶴の本心はわからないが。



「いや、休みだからってどこかにいったりはしねぇよ。
たぶんいつも通り家でも仕事だな」


ため息混じりにいうとフフっと千鶴が肩を揺らす。



「なんか想像つきます」


そんな千鶴にもう一度ため息をつく。



「お前は?聞いた話によると親父さんの実家に遊びにいくんだってな?」



俺から話を吹っ掛けると千鶴は一瞬「はい!」と嬉しそうにこちらを向いて返事をするが、すぐにうつむき「でも…」と小さく呟く。



「?どうした?」



腕組みをしたまま千鶴を見ると、千鶴は足元を見たまま



「でも、わたしがパパの田舎にいっている間、平助くんもずっと合宿で…。」

「………。」

黙って次の言葉を待つ。



「わたしが心配するのもおかしいんですけど、名前さんのことが心配で…。」



よほど心配なのかそのまま顔をあげようともしない。



「……。中学生の小娘に心配されるほど、情けないやつなのか?」


ひとつため息をつき静かに語りかける。


「!」



俺の言葉に目を見開き顔を上げる。


「そんな、違います。心配っていうかその…。不安…、なんです」


言いながらまたうつむいていく。



「不安?」

「……。あの、ホントにわたしがこんなこと思うのも、家族でもないのにおかしいんですけど、
先日、名前さんの上司の方が名前さんを家まで車で送ってきてくれたんですけど…。」



言ってもいいものなのか戸惑いながら言葉を続ける千鶴。
誰かに心の不安を聞いてもらいたいってところか。



「それで?」


千鶴が話しやすいように先を促す。


「その…。ただ送ってくださっただけじゃなかったみたいで…。」

「?」


いったいどういう事かと千鶴の横顔をじっと見据える。



「あの、なんか平助くんに会いに来たとか言ってたんですけど、それがなんだかただ興味本意で来た訳じゃ無さそうに感じたんです。」



そこまでいうと千鶴は俺に目線を合わせて顔を上げ、早口で捲し立てる。



「でも、それはただのわたしの感じたことで、実際原田さんが名前さんに対して特別な感情があるかどうかっていうのはその場ではわからなかったんです」


早口で捲し立てる言葉のなかに聞き覚えのある名前が出てくる。



「原田…?」
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