平助の母親

□18.
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「た、ただいま〜…」



何故か小声で帰宅の挨拶を口にして玄関を開ける。
チラリと後ろを見ると『ん?』と原田さん。



「あ、あは…。」


とりあえず作り笑いを浮かべて靴を脱ぐ。


「……、かぁちゃん?」


リビングから平助の声が届く。


「あ、た…、ただいま!」


もう一度、聞こえるように言うと、平助がリビングから姿を現してこちらへと歩いてきた。



「おかえり〜。って。…誰?」



平助はわたしの後ろにいる原田さんの姿をとらえて尋ねる。



「あ、あの、こちらは職場の方で、…原田さん。」



そう言って原田さんへ手のひらを向けて紹介する。



「原田左之助だ。」



原田さんが名乗ると後から千鶴ちゃんも手を拭きながら玄関へとやって来た。



「あ、あの…、どうかしたんですか?」



千鶴ちゃんが私に尋ねる。



「あ、千鶴ちゃん、ただいま。えっとね…」

「んん?子供って、二人もいたのか?」



原田さんが千鶴ちゃんに目線を向け、私の顔を覗き込む。



「あ、っと、えと、この子は近所の子で平助の幼馴染みの千鶴ちゃんです。
毎日うちでご飯の用意をしてくれて、すごく助けてもらっているんです。」

「初めまして…」



千鶴ちゃんが小さくお辞儀する。



「初めまして。原田左之助だ。二人とも苗字と何処となく似てるから兄妹かと思ったぜ」


原田さんも改めて千鶴ちゃんに名乗り優しく微笑む。



「…んで?その原田さんがどうしてうちに?なんかあったの?」



両手を頭の後ろで組み、廊下の壁にもたれて平助が原田さんに尋ねる。
すると原田さんはにっと笑みを浮かべて


「今日はおまえに会いに来たんだ」と平助を見る。


突然そんなことを言われた平助は組んでいた手をはずし、壁から背中を離すと


「はぁっ!?なんでオレ?」


と私に聞いてくる。


「えっ!?えっと…?」


私に聞かれてもわかんないよ!
答えようもなくて、でもかといって原田さんに答えを求めたら、
なんかとんでもないことをいってしまうのではないかと思ってあえて原田さんへ視線を向けないようにしていたのに、
無情にも原田さんがすかさず言葉を発する。
でも、原田さんから発せられた言葉はわたしが心配していた内容とは違っていた。



「今日は、おまえの母親を送り届けるついでに、おまえに直接会って、許可をもらおうと思ってな」

「許可?」



怪訝な顔で原田さんに視線を向ける平助。



「実は、こいつが入社してから、まだ歓迎会ってのをやれていなくてな。
俺たちとしてはこいつがOKしてくれたらいつでも行ける状態ではあるんだが、
おまえの母さんは夕飯だけは子供と一緒に食いたいんだって言っててな。
それは親として当然の願いだと思って俺も歓迎会は無理にとは言わないからってお流れにしてたんだが…」



チラリとわたしを見てさらに言葉を続ける。


「ゴールデンウィークの予定を聞いたら家で一人で過ごすっていうから、
じゃあ他の連中と企画してたキャンプに一緒にどうだ?って誘ってみたんだが…。
どうやらそれもあまり乗り気じゃないみたいなんだ。」


今度は平助に視線を向ける。



「子供が不在の時に自分まで外泊するのはどうなのかって、迷ってるらしいんだ。」


すると平助は原田さんから私に視線を向ける。



「キャンプは三日と四日、必ずこいつを楽しませて、何事もなく返すからキャンプにつれていくことを許可してほしいんだ」


この通りだ。と言って原田さんは大きな体を二つに折り深々とお辞儀する。



「はっ、原田さん!?」



狭い玄関で大きな動作をする原田さんにビックリして原田さんの背中に手を置くけど原田さんは顔を上げようとしない。



「原田さん…」



どうしようもなくてもう一度呟くとはぁと平助がため息を吐いた。
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