平助の母親
□16.
2ページ/3ページ
あぁ、僕ってなんでいつも怒らせちゃうんだろ。
かわいいって言っただけなのに。
こんなに早足で歩いてたらあっという間に駅に着いちゃうよ。もっと一緒にいたいのに。
「ねぇ、ちょっと!」
思わず彼女の左手をつかむ。
その瞬間彼女は捕まれた手首を大きな瞳で見て歩みを止める。
思わずつかんだ彼女の手首。
その細さに、彼女の小ささに愛しさが沸き上がる。
このまま抱き締めたい衝動を押さえ手を離す。
「ごめん。もうちょっとゆっくり歩こうよ。」
そう言うと彼女は僕がつかんだ手首を胸元に寄せて右手を添えると
「あ、うん。…ごめんね」となぜか謝る。
そんな様子もかわいくてたまらない。
僕って本当に一度気に入るととことんだなぁ。
自分でもよくわからないけど、この子の事をもっと知りたくて、
もっと一緒にいたくて、離したくない。
名前も知らないのに、どうしてこんなに惹き付けられてしまうんだろう…。
「ね、そう言えば僕、まだキミの名前聞いてないよ?」
出会ってからずっと聴きたくて、
でも何故かききそびれてた事。
最初から単刀直入に聞いてれば良かったのに、この子を見てると、それ以上に見てるだけで浮かれてしまって、結局からかってるつもりはないのに何故か怒らせちゃったりして聞きそびれてしまう。
そんな僕らしくもない失敗から数日。
やっと落ち着いて聞くことができた。
並んで歩きながら聞くと、
「……。そうだっけ?わたし言ってなかった?」
アレ?と首をかしげる。
「うん、僕の名前しか言ってないよ」
にこっと笑って彼女に顔を向けると、
「そっか、ごめんね?聞くだけ聞いて名乗らないなんて。わたしは苗字です。苗字名前」
歩みを止めて体ごと正面を向いて自己紹介をしてくれた。
「苗字、名前ちゃん…。」
呟くとうん、と頷いてくれる。
「僕の名前は沖田総司です。」
もう一度改めて自己紹介をする。
「沖田総司くん」
彼女も僕の名前を呟くからぼくも「うん」と頷く。
「改めてよろしく!名前ちゃん」
右手を差し出す。
名前ちゃんは一瞬キョトンとしたけど、にっこり笑って
「こちらこそ、改めてよろしく!沖田くん!」
僕の右手をしっかり握りかえしてくれる。
「ふふっ、小さい手」
繋がった名前ちゃんの手を持ち上げて、愛しさが混みあがってきて思わず笑ってしまう。
「!もぉっ!また笑う!」
僕に手を捕まれたまま怒っても全然迫力ないし。
ほんとかわいいなぁ。
「ふふっ。さ、行こうか」
名前ちゃんの右手をつかむ力を緩めると離れていく小さな手。
空っぽになった右手にさみしさを感じ、そのまま下ろした手で名前ちゃんの左手をそっとつかむ。
「!?」
驚いて見上げる名前ちゃんを視線だけで見下ろして、
「行こう」
ドキドキする鼓動を悟られないように前を向いてにっこり笑って見せた。