平助の母親
□16.
1ページ/3ページ
☆★おつかれさまです、帰り道。★☆
「それじゃ、お先に失礼しまーす」
わたしの勤める誠自動車は、女性社員にとても優しく、ショールームの閉店時間は19時なのに、定時を18時にして早めに帰してくれるとても紳士的な会社。
今日も男性社員より先に仕事を切り上げ、定時にお店を出る。
といっても、各拠点に女の子は一人づつしか配置されていないから一緒に帰る人がいないってのは少し淋しい気もするんだけどな…。
でも、特に人通りの少ない所を歩くわけでもないし、ショールームを出て10分もしないうちに駅に着いちゃうくらいだから別に一人でも平気なんだけどね。
すっかり日も暮れて少し肌寒い夜道を駅に向かって歩く。
ゴールデンウィーク明けて少ししたら、日ももっと長くなって、この時間でもまだ明るいんだろうな〜。
と思いながら空に浮かぶ月を見上げて足を進めていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「ねえ、ちょっと待ってよ!」
?この声、私に話かけてる?
振り向いてみると後ろから走ってこちらへ向かってくる人影。
ショールームの前まで来て店内から漏れる明かりに照らされて人影の顔がはっきりわかる。
「はぁ、やっぱりキミだった!」
走って息が上がったのか、両膝に手をついて、顔をにこっとあげる。
「あ、えっと、沖田くん…?」
そういえば、この数日朝の電車で見かけなかったなあと思いつつ、彼の息が整うのを待ってると、すくっとからだを起こし一歩私に近づく。
「すごいなぁ、僕の名前、ちゃんと覚えててくれたんだ。」
にっこり笑ってさらに言葉を続ける。
「今から帰りなの?ぼくもこれから駅に向かうとこだったんだけど、一緒に行かない?」
そう言いながらすでにもう足は駅へと向かって歩き出している。
「あ、うん、」
わたしも沖田くんに続いて歩き始める。
「いつもこの時間に仕事終わるの?」
沖田くんは背の高い男の子だから、隣を歩いているとずいぶん高い位置から声が降ってくるみたい。
「あ、うん。お店は19時までなんだけど、女の子は早く帰してくれる決まりみたいで…」
そういって顔を沖田くんに向けるけど、思ったよりもっと上を見ないといけなくて、少し顎をあげ直す。
「……、沖田くんって、背、大きいよね」
思ったことを口にすると、彼は一瞬キョトンとしたけど、次の瞬間盛大に吹き出してお腹を抱える。
「ブハッ!なに急に!」
「え!?だ、だって…、こんな大きな人とこんな風に歩いたことないから…、いつもより顔が高いとこにあってなんだか変なんだもん。横見ても顔ないし、声が上から降ってくるみたいだし…!」
お腹を抱えて笑い続ける沖田くんにムッとして口答えみたいな言い訳をすると余計に笑い出す。
「も、もぉ〜。笑いすぎだよ…」
笑われ続けてだんだん恥ずかしくなってきてうつむいてしまう。
「ご、ごめん、きみって、なに?大きくなりたいの?」
まあだお腹抱えてる。
笑いをこらえようとしてる。
「ちがっ、別にわたし小さいの気にしてないし!」
プイッと顔を沖田くんの反対方向にそらすと沖田くんからもポンポンされる。
「なっ、なに?」
叩かれた頭を両手で塞ぐと、沖田くんはにっこりスマイルで
「小さい方がかわいいよ」
とさらっとイケメン発言をした。
そのきれいなスマイルにわたしは頭に両手を充てながら一瞬何を言われたのか理解するのに時間がかかってしまったみたいだけど
「キミのその高さって、ちょうど手を置きたくなる高さって言うのかな?すごくベスポジ」
とウインクされて我に返る。
「もぉ、沖田くんといい、原田さんといい、土方先生といい…。なんなのよ…」
足元を見ながらぶつぶつ呟いて歩を進める。
「ん?なぁに?」
早足で歩くわたしに余裕でついてきてわたしの横顔を覗き込む沖田くん。
「なんでもないですっ!」
早足をさらに早める。
「ちょっと、怒らないでよ。」