平助の母親
□15.
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でも…。五日間もあの家でひとりぼっちか〜。
考えてみたら平助を身籠ってから今まで、あの家で一人で過ごすことなんてなかったかも。
平助も千鶴ちゃんも朝から晩までいないのか〜。
どうしよ…。
改めて考えたらホントにさみしいかも。
泣いちゃうかも…。
そんなことを考えながらブログの更新画面を前に沈黙しているとショールームの奥から賑やかな声が聞こえてきた。
「ぃよっ!おつかれぇ〜ぃ!」
振り向くと作業着姿の永倉さんと島田さんが首からかけたタオルで汗を拭きながら事務所に入ってきて、作業内容を伝票にするためにサービスフロントの書類ケースに作業報告書の束を入れていた。
「おつかれさまです。」
「おっ、なんだよ名前ちゃん〜。まだ残ってたのか?」
永倉さんが近づいてきてディスプレイを覗く。
「はい。まだ勤務時間中です。それにあと残りの時間で今日のブログ更新しないとなので。」
永倉さんを見上げて言うと目が合ったと思った瞬間、なぜか一瞬目を見開いて固まったかと思ったらサッとショールームのガラス張りの方へ顔を背けて
「そっそういえばまだ6時前か!はっはぁ〜。いやぁ〜、まだまだ日が長くなるのは先ってことだな〜。真っ暗になる前に帰らないと女の子の一人歩きは危険だぜぇ?」
なんてちょっと棒読み?
「?大丈夫ですよ?もう永倉さんは心配性なんですね。永倉さんの彼女さんはさぞ大事にされてるんでしょうね。」
そういうと永倉さんがゴクリと息を飲んだ。
「な………。なぁ名前ちゃん?…こないだぁ、彼氏いないって言ってたけど…」
「それより永倉さん!ブログネタ、何かありますか?」
永倉さんが何か言いかけたようだったけど、同時に私の台詞が被ってしまった。
「……………。」
「あ、すいません、何か言いましたか?」
慌てて口元を押さえて永倉さんを見上げると、
「い、いや、その…。なんでも…。」
となんだか歯切れの悪い返事でがっくりとした様子。
「???」
どうしたんだろ?と頭をかしげるとショールームの自動ドアが開き
「おつかれさーん」と原田さんが外回りから戻ってきた。
「あ、おかえりなさい。おつかれさまです。」
ディスプレイから顔を覗かせて言うと原田さんは
「なんだ苗字、まだ帰ってなかったのか?」とディスプレイ越しに正面まで来る。
「ちょっと、原田さんまで!まだ勤務時間終わってませんから。そんなに早くここから帰ってほしいんですか?じゃあもう帰っちゃおうかな!」
プイっと右側の天井に顔を向けて悪態をつくとなぜか慌てる永倉さんと吹き出す原田さん。
「もぉ〜!なんなんですか!そんなことよりブログネタ!何かありませんか?」
「わりぃわりぃ、そんなに怒んなって。ブログなら無理して毎日更新しなくったっていいんだぜ?苗字が書かない日はオレや源さんが書くし、サービスのやつらに書かせたっていいんだ。ってことで今日は新八、おまえが書いてやれ。」
「はぁあ?!?なんでそーなるんだよっ!?」
「永倉さん、お願いします!」
「うっ…!」
「ほらほら、苗字にお願いされちゃあ断れねぇよなぁ〜。」
にやにやしながら原田さんは自分のデスクに鞄を置きにいった。