平助の母親

□15.
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4月ももう残りわずか。
少し肌寒かった朝晩も、日がたつにつれ日中との温度差もなくなって、過ごしやすい季節へと移り変わっていく。


「そうだ母ちゃん。おれ連休入ったら合宿始まるから」


いつものように千鶴ちゃんが用意してくれた晩御飯を囲い、口にたくさんのご飯を詰め込みながら平助が言った。


「?…合宿?」

「あぁ、バスケ部の。1日から5日まで丸々使って朝から晩まで練習!」


楽しみだな〜!とウキウキしてまたご飯を頬張る。


「1日から5日って。ゴールデンウィークまるごと!?」

「そ。まるごとバスケ!」



やっぱり嬉しそうにご飯を頬張る。
今年のゴールデンウィークは1日と2日が土日になっているのでほんとの意味で大型連休。



「平助くん、さっきからご飯ばっかり…。おかずもちゃんと食べてる?」


ウキウキの平助に千鶴ちゃんが声をかける。


「千鶴ちゃんは?千鶴ちゃんの部活も合宿あるの?」



平助の最初の発言からすっかりお箸が止まってしまったわたし。
そのままの状態で千鶴ちゃんにも連休の予定を聞いてみた。



「あ、うちの部は今年は合宿ないんです。連休中も練習はあるんですけど、自主トレ程度に出られる人だけ出てくって感じなので」

にっこり笑う千鶴ちゃん。



「そうなんだ!じゃあ…」


平助がいなくても二人でご飯食べようねと続けようとした言葉に千鶴ちゃんの嬉しそうな言葉が被さる。


「なので、五月の連休は久しぶりにパパの実家に出掛けることになったんです!」


とても嬉しそうな千鶴ちゃん。


「パパ、4月に入ってから大学病院の研究室に泊まることが多くてなかなか帰ってこられなかったから、連休くらいは田舎でのんびりしようって言ってくれて。」

すごく楽しみなんです!
とこちらも平助に負けないくらいウキウキキラキラ。



「あー…。そっかぁ、じゃあ二人ともいないんだぁ…。」



子供たち二人の笑顔をみて、本来なら一緒に喜んであげるのが親のあるべき姿なのに、わたしは一人沈んでる。


「なんだよ母ちゃん!さては…、さみしぃのかぁ〜?」


左手にお茶碗を持ち、右手のお箸の先を私に向けておちょくるような眼差しでにやつく平助。



「こっ、こら平助!お箸を人に向けるんじゃありません!てゆうか?別にさみしくなんかないし?」



親として注意すべきところは一応注意しとく。
そして図星を指されてなんだか悔しかったのでご飯をかきこむ。



「まぁいーじゃん。たまには母ちゃんもオレらのいない静かな夜を楽しめばさ!どうせオレらには予定があって、自分だけなんも予定ないのが寂しいんだろ?母ちゃんもオレらのいない間くらい、どっかパァーっと遊びにいってきたら?ほら、韓国とかいってグンちゃんツアーとかさぁ」



唐揚げを放り込んだ口に今度はレタスをモシャモシャと頬張る。



「もぉ、だから寂しいなんて言ってないでしょ〜!それにうちにはそんな贅沢するお金なんてないの!いいの。わたしはわたしで五日間ゆっくりさせてもらいますぅ〜!」



唇を尖らせて言い返す私と平助のやり取りを見ていた千鶴ちゃんはくすくすと笑いだし、

「ホント、名前さんと平助くんって仲良しですよね。」

と私と平助を交互に見る。


「私にもママがいたら、きっとこんな感じだったのかな?」
なんて眉を下げて笑うから


「なにいってるの千鶴ちゃん!きっと私なんて千鶴ちゃんのママには到底及ばないかもだけど、わたしは千鶴ちゃんの事、本当の娘だと思ってるよ!だから千鶴ちゃんも遠慮しないで?そうだ!いつか余裕ができたら一緒にグンちゃんツアー行こうっ!ねっ!?」


思わず早口で言うと平助が、なんで千鶴つれてグンちゃんツアーなんだよ…。
とあきれた目線を送る。


「あ、あの…。グンちゃん…はよくわからないけど…、いつかみんなで旅行とか行きたいです!」


グンちゃんの魅力がまだわからなくて戸惑っていた千鶴ちゃんだったけど、にっこり笑って答えてくれた。
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