平助の母親
□14.
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☆★千鶴ちゃん、今日のメニューは?★☆
土方先生が車をガレージに駐車している間に、私は先にリビングへ向かい、キッチンに入る。
「おまたせ、平助くん。今ご飯並べるね。」
リビングのソファーにうつ伏せになって足をパタパタさせて拗ねている様子の平助くんに声をかける。
私が声をかけると、平助くんは首をこちらに向けて、
「んぁ?…。お、おぅ…。」
とすこし不機嫌な声で返事する。
平助くんがこんな態度をとるときは、決まって名前さんと喧嘩しちゃったりとか、平助くんが一方的に感情的になって名前さんに当たり散らしちゃったりした時に、こうなるって決まっている。
平助くんはソファーから降りるとキッチンでお茶碗にご飯をよそう私のそばにきていつもより少し低めの声で話しかけてきた。
「千鶴は…、心配じゃなかったのかよ…?」
振り返って平助くんを見ると平助くんはうつむいて足元を見ている。
「うん、個人懇談で土方先生と一緒にいるってわかってたから。これがもし、お仕事の帰りがいつもより遅くて連絡も取れないってなったら、わたしも心配して平助くんみたいになってたと思うけど。」
そういって平助くんに安心してもらいたくてニコっと笑ってみせる。
すると一瞬目を大きく見開いた後、
「やっぱ千鶴にゃあかなわねぇよ」
とやっといつもの平助くんスマイルを見せてくれた。
「ところで母ちゃんは?まだ来ねぇのか?」
三人分のお箸とコップを戸棚から出してダイニングテーブルに運びながら平助くんがまだ戻ってこない名前さんを気にして言う。
「あ、うん。そろそろ…」
言いかけたその時、名前さんがリビングの入り口に現れ、それに続いて土方先生が姿を現した。
「なっ!?なんで土方先生がうちに上がってきてんだよぉ!!!」
平助くんはかなり驚いて腕を大きく伸ばし、土方先生へ人差し指をビシィっと向け叫ぶ。
「私がご飯食べてってくださいって無理矢理誘ったの。」
四人分のご飯を運びながら言って、お盆からご飯をテーブルに置く私に
「な、なんで………」
とあまりの驚きに言葉が続かない平助くん。
「だって、大勢で食べた方がおいしいって、私、いつもここでご飯食べてるとそう思うから…。」
ダメだったかな…?と困ったように首を傾けて平助くんを見ると平助くんは少し戸惑ってはいたけれど、
「ま、まぁ…。千鶴はそうだけどもさぁ…」
と口ごもりながらなんとか納得してくれそうな様子。もう一押し!
「土方先生、せっかく名前さんを送ってくださったんだし、これから帰って一人で食事の準備からしなきゃいけないって、少しかわいそうかなって思ったから。ね、いいよね?」
平助くんの顔を覗き込んで言えば、平助くんは渋々納得してくれた。
「じゃ、土方先生は鞄をここに置いて、名前さんと一緒に手を洗ってきてください」
土方先生の手から鞄を取りソファーの脇に置き、名前さんたちに振り向いて行った行ったと手を払う。
そんないつもと違うわたしの様子に土方先生は少し焦りながら
「お、おぉ…」と短く返事をし、名前さんはふふっと笑って
「はぁ〜い!千鶴ちゃん、お母さんみたい」
とにこにこしながら土方先生を回れ右させると背中を押して洗面所へと向かった。
名前さんたちが去っていった方を見て平助君は
「てか、なんで…」とまだ言っている。
「平助くん、今日は名前さんと私と、土方先生、誰の隣に座る?」
ブツブツ言っている平助くんに質問すると一瞬も考えることなく、
「千鶴!」とふてくされて答える。
そんな様子がかわいく思えてしまって、思わず笑みを浮かべてしまう。
「じゃあ、名前さんの隣に土方先生ね」
と言いながらいつもは使わないお茶碗によそったご飯を名前さんの隣に置くと、
「なっ!?」
大慌てで顔をあげて焦っている。
「?どうしたの?」
にこにこ笑いながら聞いてしまう私は、ちょっと意地悪だったかな?
でも、名前さん大好き平助くんをからかうのって、密かに私の楽しみなんだよね!