平助の母親

□13.
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下校時間をとっくに過ぎた廊下には、足元を仄かに照らす非常灯のみ。
俺の歩く後ろには平助の母親、苗字がトボトボと頭を下げて歩いている。
その様子は試合に負けたボクサーのような真っ白さ。

いや、こいつが着ているパーカーのせいだ。こんな下らない例え、俺らしくもねぇ。

そんな馬鹿馬鹿しいことを思っているうちに階段を降り、一階の昇降口にたどり着く。



「それじゃあ、ここで」


そういって振り返ると真っ白な顔で
「ありがとうございました…」とゆっくり深々と頭を下げる。

一歩職員室の方へ足を踏み出し歩き出そうとしたが、ふと視線を苗字の方へ向けると頭を下げたままの姿勢でじっとしている。
その姿勢はどっかの一流ホテルの従業員、もしくはCAのような完璧な佇まいだ。

実際には数秒だったかもしれねぇが、ちっとも微動だにしねぇ様子に流石に驚いて苗字の方に向き直り声をかけようと口を開いた瞬間、またゆっくりと姿勢をもどし始めた。
思わず膝から力が抜けて崩れ落ちそうになる。この俺が。
なんなんだ、一体!



「あの、本当に大丈夫ですか」
つい声を掛けてしまう。

すると苗字は、あ、と声を漏らし、「だいじょうぶです。失礼します。」といい、ヒールのない小さなパンプスに足を入れ昇降口から出ていった。



なんだったんだ、一体…。
本当に今のが昨日の女と同一人物だとは到底信じられず、しかもそのギャップの酷さに平常心じゃいられなくなってしまう。

俺は一体…。

昨日のショールームで見た苗字に何かを期待していたって事か?
いや、なんで俺がそんなこと…。
だが、ますます不思議でしょうがねぇ。
人間、あんなにイメージと違うものなのか?
さっきまで一緒にいた苗字は、昨日の苗字と比べて輝きが全然違っていた。
昨日の苗字はキラキラと笑顔が輝いていて、背筋もピシッと伸びて、自信に満ち溢れているようだったのに…。

今日の苗字は…。

と、そこまで考えているといつの間にか見廻り当番で残っている教師しかいない職員室に着いた。
自分の机に行き今日面談した生徒の資料をまとめてファイルに閉じようとしたとき、窓からフラフラと歩く苗字の姿を見つけてしまった。

闇に紛れることのない白のダブついたパーカーはさながら亡霊を思い起こさせる。
フラフラとぼとぼ、ヨロヨロ…

……………………。

頼りない足取りにいてもたってもいられなくなり、机の上もそのままに俺は鞄を引っ付かんで職員室から駆け出した。



「苗字さん!」


そう叫んで呼び止めると苗字は振り向き目を大きく見開いて驚いた。


「…、せん、せぃ…」


駆け寄って苗字の目の前まで行くと、少し乱れた息をゆっくり整えながら口を開いた。



「苗字さん、家まで送ります。」


すると苗字は慌てて

「そんなっ!大丈夫です。一人で帰れますから!」

と両手を胸の前でパタパタ振る。
俺は思わずその手を掴んで
「いいからこっちだ。」と強引に引っ張り駐車場へと向かった。


リモコンキーで解錠ボタンを押すと二台しか停まっていない真っ暗な駐車場の中で俺の車のハザードランプが点滅する。

苗字の小さな手を引っ付かんだまま助手席に向かい、ドアを開け苗字を押し込む。
助手席のシートに無理矢理座らされた苗字は開いていたドアの隙間からオレを見上げ「あっ!あの…」と潤んだ瞳で何かを言い掛けたがお構いなしにバンっとドアを閉め、運転席へと乗り込んだ。



「悪いが、これ持っていてくれ」

鞄を苗字の膝に乗せる。

「えっ、あっ、あの…」
戸惑った声の苗字。



「そこはこいつの指定席なんだ。そこに座らせてやってんだから大事に持っといてくれよ?」



ニヤリと苗字の顔を見ていうとキーを差し込んでエンジンを回す。
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