平助の母親

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夕方5時半過ぎ、明日は月曜日、お店の定休日のお知らせと今日のお店の様子をブログに書いているところで原田さんが後ろから話しかけてきた。



「なぁ苗字、こないだ新八から聞いたと思うけど、おまえの歓迎会をこの店舗の全員がやりたいって言ってるんだが、どおしても都合つけられねぇか?」



左手を私の机につき背の高い原田さんは首を傾げて 私の顔を覗き込む。
傾げた拍子に耳にかけていた長い前髪がはらりと滑り落ちて。
仕種がいちいちセクシーです。

ブログの更新日時を設定してエンターキーをパシッと押す。
『設定完了しました』の画面を見ながら左手をあごに添えてう〜んと唸るわたし。


「でも、それって帰り、遅くなっちゃいますよね…?」


わたしも首を傾げて原田さんを見上げる。



「まぁ…、そりゃぁ、普段より二、三時間は遅くなるだろぉなぁ…」


と言って右手で頭を掻く。


「二、三時間かぁ…。遅くても九時には終わって十時前には家につくとして…。う〜ん…。どうかな〜」



左手をあごに、右手は左手の肘を抱えるようにして、上を向いたり下を向いたりしてブツブツ考え込む。



「…やっぱり子供がいると飲み会とか無理か」


残念そうに呟く原田さん。


「そうですね。私の歓迎会をしてくださるっていう皆さんのお気持ちは本当にありがたいんですけど、やっぱり夜ご飯だけでも子供と一緒に食べたいって思っているので…。せっかく計画してくださったのに、申し訳ありません」


そう言って膝に手を置いて頭を下げると、


「おいおい、そんな改まって謝るなよな。ただ、やっぱりみんなおまえと親睦を深めたいって気持ちはあるからよ。できたらでいいから都合がついたら、いつかみんなで飲みに行けたらいいよな」



そう言って原田さんはわたしの肩にぽんっと手を置いた。




「しかしな〜。ほんとマジでおまえに子供がいるなんてな〜。人は見かけによらねぇってこういう事を言うんだな。年齢はもう聞かねえが、実はオレより年上だったりするんだろ?今更敬語で話すとか、オレムリだぜ?」



顔を近づけて子供がいる云々が他の人に聞こえないように小声で話す。
なんかステキな香りが漂ってますが、これもお色気なのですか?
思わずクンクンしそうになったけどパッと顔を原田さんからパソコンのディスプレイに向ける。



「べっ、別に敬語なんて使わなくて結構ですよ。歳とか関係なくわたしの方が新人なんですから。それに、子供がいることも別に隠しているわけでもないのでそんなに気を使って話していただかなくてもいいですよ」



ちょっと早口になってしまったけど、言いながらパソコンの電源をシャットダウンしてイスから立ち上がる。

原田さんからフッと笑った息づかいが聞こえたけど聞こえないフリ。



「いやでも、おまえに子供がいるって知ったらショック受ける奴がいるのは確実だからな。オレからは周りに漏れないよう気を付けるよ」


新八が知ったら…。と呟いてくくくっと笑う。
すると



「俺が知ったら…、なんだって?」



と永倉さんが原田さんに背後からしがみついた。


「っと!新八、いきなり現れるなよ」

「ンだよ、その言い方!おれはモンスターかっての!?」


永倉さんがいるだけでその場が急に賑やかになる。
原田さんに絡む永倉さんに
「似たようなもんじゃねえか」
と笑顔で返す原田さん。

若いなぁ、と思いながら二人のやり取りを笑顔で見ていると部長の井上さんまでやってきた。


「相変わらずいつも賑やかだねぇ。若いってのは元気があって良いね」


わたしの隣で二人を見る。
わたしも一緒になって『そうですね』なんて言っていると、原田さんに絡んでいた永倉さんがこちらに指を指して



「おいおい、なんだってそこで熟年夫婦みたいになっちゃってるんだよ〜!」


と大騒ぎ。
わたしと井上さんは目を見合わせて微笑む。



「なんで見つめ合うかな〜!」


両手で頭を抱え込んで地団駄踏む永倉さん。ほんとに若いなぁ。
笑いながら帰り支度を始めると、



「さっきも言ったけど、すぐじゃなくても、いつか必ず歓迎会したいと思ってるからよ。都合ついたら教えてくれよ?」



そう言って原田さんも帰り支度を始めた。
平助の事を思うと安易に『はい』とは言えずにわたしは返事もできないままタイムカードを押してお店を後にした。
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