平助の母親
□9.
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近藤さんの道案内のもと、ようやくたどり着いた高級輸入車ディーラー。近藤さんちからはやたら時間がかかったが、学校からなら電車で二駅程で着くくらいの距離だ。
通りに面した店舗を通り越し、交差点で曲がり店舗裏の駐車場に入るといつものチャラついた営業マンが近藤さんの愛車を洗車していたのか、最後の拭き上げをしていた。
俺の車が駐車場に入ってきたのに気が付くと、タオルをバケツに入れ、洗車の邪魔にならないようにシャツのボタンの間に挟み込んでいたネクタイを引き出すと空いているスペースに誘導するようにこちらに駆け寄ってきた。
「いらっしゃいませ!」
チャラついた印象とは違ってわりとちゃんとした挨拶をする。
助手席に近藤さんが乗っている事に気が付くと営業スマイルから親しみある人に向けるような表情に変わり、助手席のドアに手をかけドアが開くのを待つ。
近藤さんが中から少しドアを開けると営業マンの手によって開かれる。
「いらっしゃい、近藤さん!今日はお連れさんの車で?」
近藤さんが車から降りるのを見ながら話しかける。
「やぁ、原田くん。そうなんだ。今日は俺の大親友、トシを連れて来たよ」
そう言って近藤さんがこちらを向く。
いや近藤さん。いちいち紹介しなくていいから!
そう思いながらも顔は平常心を保ったまま会釈をする。
「いらっしゃいませ」
そう言って俺にも営業スマイルを向けると、近藤さんに視線を戻し、
「もう仕上げもすんだし、いつでも出せますよ」
と近藤さんの愛車を親指で指し示す。
「おぉ、そうかね。いつもきれいにしてくれて感謝しているよ。…ところで今日は…」
そこまで言うと近藤さんはチラリと店舗内を覗き込む。
「あぁあ、苗字なら今日も出勤ですよ。せっかくだからお茶でも飲んでゆっくりしってってくださいよ」
そう言って笑いながら近藤さんを店内ヘ案内する。
さて俺はどうするかと車に鍵をかけ、タバコに手を持っていこうとすると、
「トシ、行くぞ!」
と近藤さんに声を掛けられた。
ったく…!大声で呼ぶんじゃねぇよ…。