平助の母親
□9.
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☆★近藤さんのお車、仕上がってますよ★☆
日曜日、近藤さんに言われた時間に迎えに行く。
車二台を悠々と停められるガレージには近藤さんの奥さんの車が停まっている。
ったく…。奥さんいるんなら俺を呼びつけるこたねぇだろうが。
ボヤきながら車を降りインターフォンに向かったその時、玄関の扉が開いた。
「おぉ、トシ!おはよう!エンジンの音が聞こえたからトシが着いたんじゃないかってツネに急かされてね」
休日のラフな格好をした近藤さんが玄関から門に続く階段を降りてきた。
「近藤さん…、奥さんがいるなら俺を呼ばなくたってよかったじゃねえか」
さっきぼやいたことをそのまま伝える。
俺の貴重な休日をよぉ…とまたボヤく。
すると近藤さんは俺の車に乗り込みながら
「すまない、トシ…。俺だってトシにはゆっくり休んでほしいと思っているんだ。しかし今日だけは…、今日1日だけは!おれに付き合ってほしいんだ!ツネが今日1日うちでマダムホームパーティーの会を開催すると言って帰ることも許されんのだ!俺を助けると思って!一生のお願いだ!頼むよトシ〜!」
助手席からシートベルトをぐいっと延ばして俺の左腕にしがみついてくる。
「わ、わかったから近藤さん!わかったから頼むからおとなしく行き先までナビしてくれ…」
そう言って腕から近藤さんを払いのけて大通りに続く住宅街の道を下る。
「トシ…。やはりおれにはトシしか頼れるのはいないよ。トシがいてくれて本当に良かったよ!」
助手席で一人感激して目を潤ませる近藤さん。家でどれだけ居場所のない立場なんだ…。
こういう話を聞いたりすると、結婚ってなんなんだと思う。
まぁ、今は結婚したいと思うような相手がいる訳でもなく、一人の生活に何の不満も不自由もねぇから余計にそう思うだけかも知れねえが、近藤さんの家庭をみていると俺にはそんな生活やっていけるはずがねぇ。
眉間にシワを寄せ、まだ見ぬ相手との結婚生活を想像していると
「あっ、次右折だからな!」と、もうウキウキの近藤さんになっている。
「引き取りの時と同じように店のやつらに家まで納車しに来てもらえばよかったのに…。」
またボヤく。
するとウキウキだった近藤さんの顔がこちらを向くと
「だから今日はマダムホームパーティーがあってだな…」
とまた目を潤ませる。
あ〜しまった…。
「す、すまねぇ。もう言わねえよ。…。次どっちだ?まっすぐでいいのか?」
もう今日はとことん付き合うぜ…。