平助の母親
□6.
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結局帰りは総司に押し切られ、俺の降りる駅で総司も降りてきた。
「いやー、一くんと放課後デートなんて久しぶりだね!」
などと白々しいセリフを吐きながら後をついてくる。
「一くん、大学入ってから引っ越しちゃうし、バイト始めちゃうし。僕、捨てられた気分だったな〜」
両手を頭の後ろに組んで歩く総司。
「一くん、バイトどう?楽しい?一人暮らしとかってさみしくない?」
こちらが黙っていても喋り続ける。返事をすればもっと話を広げかねない。黙らせるにはどうしたものか…。
総司の話には一切答えず、ただひたすらに家路を急いでいると、まもなく総司の目当てであろう車屋の前に通りかかった。
「ここだ」
オレは足を止めて総司に振り返る。
すると総司はショールームの中を覗くが、なかに見えるのは年輩の男性一人のみ。
「う〜ん、いないみたいだねー。奥の方にいるのかなぁ?」
ガラスに手をつき覗く総司に
「総司、ガラスに指紋がつくからやめろ。もしかしたら裏の駐車場の掃除でもしているやも知れん」
と教えてやると、ガラスに手をついたままこちらを振り向き、
「指紋が付くって一くん…。僕別に警察に追われてたりとかしないから………っ!?」
訳のわからない事を言ったかと思うと総司の目線はオレを通り越している。
つられて後ろを振り向くとショールームに展示されている車と同じ型のクルマに仲睦まじく戯れるカップルが信号待ちで停車していた。
「……………。」
信号が変わり車が動き出すまで、俺たちは身動きすらせず立ちすくんでいた。
「……………。」
「………総司………」
「………一くん」
「………。」
車が去っていった方向を二人で並んで見つめている。
「すぐ戻ってくるかな?」
「は?」
「今の二人、すぐ戻ってくるよね?」
バッとこちらを向き聞いてくる。
「いや、オレに聞かれても…」
あまりの迫力に圧され思わずたじろぐ。
「僕、待ってる」
「は?」
「あのこが戻って来るまでここで待ってる」
………。
「は?」
「一くんはもういいよ、帰って。ありがとね」
そう言うと総司はショールームの中に入っていこうとする。
「いやまて総司!一体どうするつもりだ」
総司の肩を掴んで引き留める。
「どうするって、そんなの戻って来るまで中で車とか見るのに決まってるじゃない」
「買うつもりもない奴がそんなことするなど…。少し落ち着け!」
店の入り口の前で言い合っている間中、自動ドアが開いたり閉じたり…。
「いらっしゃい」
中から人の良さそうな年輩の男性に声を掛けられてしまった…。
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