平助の母親
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「ただいまー!腹へった〜!今日のメシ何〜?」
仕事から帰って来て急いで晩ごはんの準備をしていると平助がお腹を空かせて帰ってくる。
「お帰り!私もさっき帰ってきたとこだからまだできてないの。先にお風呂入っちゃって?」
お腹を空かせているのに準備が間に合わなくて申し訳なくてそう言うと『しょーがねぇな〜』なんて言いながら仏壇に手を合わせてから部屋に入って言った。
仏壇には私の父と母の笑顔。
藤堂さんとの間に平助を授かって、結婚することも許されずに引き離された私を優しく見守ってくれた私の両親。
それからずっと、私と平助の成長を見守ってくれた。
平助が小学校に上がり4年生になる頃、父はすい臓がんで亡くなった。
まだ50代の父に癌の進行はとても早く、癌が発見されてからはあっという間に全身に転移して、入院から半年たつ頃には一度も家に戻ってくることもなく息を引き取った。
母も半年間の看病が祟ってか、父がいなくなったこの家で気力も体力も弱くなり、二年後、平助が小学校最後の冬休みに入ると肺炎をこじらせて父の元へと旅立って行った。
私に残されたのは父が建ててくれた、世間から見たらそんなに立派ではないけれど、家族四人の思い出がいっぱい詰まったこの家と、父と母の遺してくれた遺族年金だけ。
父と母の生きた証があるから、今の私と平助は生きていける。
父と母に恥ずかしくないように、一生懸命毎日を生きていくんだ。
そんなことを思いながら父と母の遺影を見ていると後ろから「母ちゃん!鍋噴いてるってぇっ!」と平助の叫び声。
「えっ!?えっ!?…わあっ!」
あわててガスを止める。
「もぉ〜、母ちゃんなんだから〜」
そういって鍋の蓋を開けて中を確認する平助。
「ちょっと…、母ちゃんなんだからってなんなのよ」
横目でジトっと睨むと平助も横目でフフンとニヤついた顔をして
「オッチョコチョイなんだから〜、って事だよ!」と言う。
「もぉ〜!平助!」
お玉を振り上げて威嚇すると、キャーっとリビングへ逃げていった。
「もぉ…ホントに生意気なんだから…」
ぶつぶつ言いながらご飯をよそおうと炊飯器を開けると中は水に浸かったお米が沈んでる…。
「わぁっ!スイッチ入れるの忘れてたぁ!」
「えぇっっっ!」
「……………。」
「……………。」
「………えへっ?」
「母ちゃん〜………」
ソファーに座って濡れた髪をタオルでガシガシ拭きながら呆れ顔で母ちゃんを見ると、母ちゃんは俺が帰ってきたときと同じ申し訳なさそうな顔で両手を合わせて謝った。
「ゴメンね。お腹空いてるのに…。おでんだけでも先に食べよ?」
別に責めてる訳じゃないのに、母ちゃんはいつも情けないくらい申し訳なさそうにする。
そんな母ちゃんの顔なんて見たくないから
「別にいいよ。怒ってないし」なんてぶっきらぼうにいい放ってしまう。
そんなオレに
「ホントにゴメンね。早炊きにしたから今から30分もしたら炊けるから」
なんて眉を下げて笑う。
「いいよ。おでん、食べよ」
オレも母ちゃんと同じ顔で笑う。
こんなやり取りをずっとこれからもしてくんだろーな。
オレと母ちゃんと。
ずっとずっと。
俺が母ちゃんとこの家を守ってくんだ。