平助の母親
□2.
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☆★沖田君の登場です。★☆
大学生も早4年。この人の流れに逆らってホームにたどり着くまでの鬱陶しさに我ながらよく耐えたもんだ。
あと1年間も流れに逆らって歩くのかと思うとウンザリだけど、3年間も耐え抜いてきたんだから、まぁ、もうちょっとくらいがんばるか。僕って健気だなぁ。
それに最近、僕が乗る車両に毎日カワイイ子が乗ってくるようになったんだ。
その子はいつも同じ扉から飛び出してきて、人の流れに流されないようにささっと扉の脇に避難するんだ。
僕はいつもその様子を後ろから見てるんだけど、その子は全く気がついてないみたい。視野が狭いんだね。
いつもスーツを着ているから社会人かな?
背なんかホントにちっちゃくて、スーツに着られてるって感じ。新社会人だな。初々しいなぁ。
そんな風に憂鬱な朝の通学に小さな楽しみを見つけた僕は、今日も同じ車両の同じ扉の停車位置であの子が飛び出してくるのを少し下がって待っている。
扉が開くとやっぱり一番最初に飛び出してきた。
というより、今日は押し出されたっていった方が正解かも。
すごい流れにその子のカバンが持ってかれそうになってカバンを掛けてた肩から地面に向かって倒れて行くのが僕にはスローモーションのように感じた。
何も考える間もなく体が勝手に動いて、僕の両腕はしっかりと後ろからその子を抱え込んでいた。
フワッと香った甘い香り。
振り向いた大きな瞳。
時が止まった。
その瞬間、
僕は恋を始めてしまったのかもしれない。