平助の母親

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パーティー会場に戻ると原田さんと共に松平社長と山南部長に引き連れられて各社の重役に挨拶回り。

入社時に作ってもらったばかりの名刺がこのパーティーだけでほぼなくなる勢いで減っていった…。




「いやぁ、今回の懇親会はすごかったなぁ…。こちらからまわらずとも相手方から寄ってきてくださって…。」

「私の用意した挨拶回りの順序もチェックリストも間に合いませんでしたね」



一通りの挨拶を終え、誠自動車の円卓に戻り一息つく松平社長と山南部長の会話を聞いて近藤さまもうんうんと満面の笑顔で頷き満足そう。



「苗字さんの人を惹き付ける魅力はたいしたもんだよ」

「誠自動車の看板娘の知名度もグンと上がるな。よくやったな」

「こういうパーティーって初めてなので、失礼なことがなかったか心配です…」



近藤さまからお褒めの言葉を頂いて原田さんからはいつものように頭をぽんぽんされて嬉しい反面、初めての経験に不安もいっぱい。



「ははは、何も心配することなんてないよ。苗字さんと話せただけでみんな満足そうだったじゃないか!名刺交換も挨拶も何にも問題なかったよ!」

「そうですよ、形式ばったマナーができていればいいというものではありませんからね。皆さん苗字さんの笑顔に好印象を抱いてくれていた様ですし。」



松平社長も山南部長も嬉しそうにグラスを傾けながらゆったりとイスに背を預けて一仕事終えたといった様子で食事を始める。



「皆さんにそう言って頂けたなら、わたしも参加して良かったです」



わたしもホッと一息ついてイスに深く腰かける。

本来なら一品ずつ順番に運ばれるはずのお料理もすっかり冷めてしまった状態でずらりと並んだフルコースを前にどれから食べようかなと左から右へとお皿を眺めるとガタッと近藤さまのとなりに座っていたとしくんが立ち上がった。



「どうした、トシ?」

「あ…、あぁ。ちょっと飲み過ぎちまったみたいだ。悪いが先に戻らせてもらうよ」

「そ…、そうなのか?」

「わりぃな、皆はゆっくり楽しんでくれ」



そう言って片手をあげ背を向けて歩き去って行くとしくんを心配そうに見送る近藤さまは、としくんの姿が扉の向こうに消えるとハァっと大きくため息をついてテーブルへと向き直り肩を下げた。



「トシは一体どうしてしまったというんだ…」

「??どうかしたのか?」



ガックリと肩を落とす近藤さまの顔を覗き込むように訊ねる松平社長。



「んん〜…。なんというか…、普段以上に黙ってるというか…、オーラが違うというか…」

「なんだ、勇でもトシの事でわからないことがあるなんて…、意外だな」

「ん〜…、そうなんだ…。大抵のことは雰囲気でわかるものなんだが…。んん〜…」



腕を組んで首をかしげてしまう近藤さまにまぁまぁと肩に手をおいてグラスを差し出す松平社長が元気付けるように声をかける。



「まぁそういう時もあるさ。しばらくそっとしておいてやるのもいいんじゃないか?」

「ん?んん〜…。そうだなぁ…」



まだ何となく納得のいかないような近藤さまだったけれど、松平社長のご機嫌な様子に少しずつ笑顔を取り戻しながらお酒を進めていた。


そんなやり取りの中いち早くフルコースを平らげてワインをクイッと飲み干した原田さんはぱちんと手を合わせると



「んじゃぁ俺も今日は緊張して疲れちまったんで、すいませんけどお先に失礼します!」

と爽やかに席を立つ。



「おぉ?なんだ原田くん、今日はたらふく食って呑むんじゃなかったのかね?」

「あぁ〜…、そうは思ってたんだけどやっぱ緊張が胃に来ちまってるみたいで」



ははっと笑いながら椅子をきちんと戻して軽く会釈をして社長をはじめ、近藤さまと山南部長に頭を下げ、最後にわたしに目を向ける原田さん。



「それじゃ失礼します。苗字、お前も疲れただろ?あんまり無理すんなよ」



ポンとわたしの肩を軽く叩いて原田さんもとしくんと同じように背中を向けて片手をあげて扉の向こうに消えていってしまった。



「原田くんが飲まないなんて予想外だったなぁ…。」

「苗字さんも疲れているようだったら部屋に戻ってもいいからね。無理することはないからね」



松平社長に気遣われてしまったけれど、そう言われたからってすぐにおいとまするのもどうかと思いもう少しだけその場に留まって四人でゆっくりと普段話すことのない会話を楽しんだ。
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