平助の母親
□30.
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☆★永倉さんはありがちなことばかりする。★☆
「うんめぇ〜〜〜!!」
バーベキューが始まり、焼き上がった食材が次々と伸びてくるお箸に捕らえられ消えていく。
「新八、ちったぁ落ち着いて食えっての」
「だってよ左之、こんなまともな料理、俺ぁ久しく食ってねぇんだよ!それを目の当たりにして落ち着いてられっかってーの!」
みんな呆れながらも、そんな永倉さんを横目に食べる手を止めない。
「それにしたって、もう少し食いかたってもんがあるだろーが。苗字が引いちまうだろ?」
すまねぇな、ガサツなヤローばっかりで。と苦笑いの原田さん。
「いいえ、皆さんに喜んでいただけたみたいでわたしも嬉しいです!作った甲斐がありました!」
立って食べている人やテーブルセットにかけて食べている人へ紙コップにお茶を注いでまわるわたしに焼き手の原田さんが手招きする。
「?、はい、原田さんも。お茶どうぞ!」
お茶が欲しくて呼ばれたと思い、紙コップにお茶を注いで差し出しながら近づくと、ちょうど焼き上がった肉巻きえのきを菜箸でつまみ上げ、私の顔にヒョイっと差し出す。
「ほら、うまそーに焼けた。おまえもいろいろ気配りはいいから食えよ」
ほら、と差し出されたお肉が口元に近づく。
「はい!いただきます!」
なにも考えずにそのままぱくっと一口。
「あ!」
「あぁっ!!」
私の一瞬の動きに目の前の原田さんと、すぐ横でそれを見ていた永倉さんが驚愕の声を発する。
「あ、あふっ!あふい!」
焼き上がったばかりでしかも中には熱々のえのき。熱いに決まってる。
「ばか!大丈夫か!?そんなすぐ食い付いたら熱いに決まってるだろ!」
口元を両手で抑え、涙目で跳び跳ねる私に心配そうに原田さんがお茶を差し出す。
「は、はぃ。はい…。」
はふはふしながら何とか口のなかの物を飲み込み、受け取ったお茶を口の含む。
「は…、はぁ…。熱かった…。」
「お前なぁ…。まぁ冷まさず食わせた俺にも非はあるが…。大丈夫か?」
原田さんは落ち着きを取り戻し、肩を上下に息つくわたしを宥めるように背中に手をおき心配顔で覗き込む。
「何やってんだよ左之は…。名前ちゃん、大丈夫か?ったく…。俺だったらちゃんとふぅふぅしてやるのに。ほら、これならちょうど食べ頃だぜ?」
と永倉さんはアスパラのベーコン巻きを持ってわたしの目の前に差し出し、
「名前ちゃんはそっちから、…で、俺がこっちから…」
少し荒い息遣いで近付くベーコン巻きと永倉さんの顔…。
「い、いや、あのわたし…。」
仰け反るわたしの肩をぐいっとつかんで永倉さんから遠ざけて、
「じゃ、いただき」
と原田さんがベーコン巻きの片方にかぶり付く。
「あ゛ぁっ!!」
「あぁ?ほれ、そっちはどうした?」
かじりつきながら永倉さんを上目遣いに促すけれど
「アホか!なんでお前が食い付くんだよっ!!バカやろぉ!!」
永倉さんはベーコン巻きからお箸を離してギャンギャん怒る…。
ベーコン巻きを全部食べた原田さんは菜箸を永倉さんに渡して、
「こいつは今口ん中大火事なんだよ。ちっと冷やしてくるから、お前焼くの頼んだぜ」
掴んだままの肩をくるっと方向転換させてぽんっと軽く叩いて歩き出すように促す。
「さ、行こうぜ」
両肩に手をおかれ、後ろから支えられるように歩き、背中を屈めて苦笑いながらも心配そうにわたしの目を覗き込む原田さん。
「ほんと、悪かったな…。大丈夫か?」
「いえ、なにも考えてなかったわたしの不注意なので…」
情けなかったけど無理やり笑顔を作ると、原田さんも眉毛を下げてふっと笑ってわたしの頭をぽんっとする。
「……とはいえ、責任もって冷やしてやらねぇとな…。」
そう言って私の顎を掴んだと思ったらクイッと角度を上げられ目の前には原田さんの獲物を捕らえたような野性の瞳!
「な!なん!なん!なんです!?」
大慌てで原田さんを押しやり距離を取る。
「何って…。取り敢えず舐めときゃ治るかなってな」
「口の中なんてなめなくてもいいんです!」
「ははっ、ジョーダンだよ、冗談。んなにムキになるなよ」
頭をポンポンポンポン叩かれる。
「…は!原田さんの冗談はタチ悪すぎです!」
かぁっと赤くなった顔をプイッとして言うと原田さんは嬉しそうに笑う。
「でも冷すっつってもなぁー…。」
しばし歩いて河原からだいぶ離れると、原田さんは何か閃いたようにパッと顔をあげる。
「そおいや、散策コースをちょっと行った所に休憩所みたいのがあったな。そこなら冷たいもんあるだろ。行ってみようぜ!」
原田さんには珍しいくらいのテンションの上がりように、わたしはおとなしく引きずられるようについていく事しかできなかった…。
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