平助の母親
□6.
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☆★お仕事です。★☆
「ありがとうございました!」
点検入庫していた車を引き取りにきたお客様を整備担当の永倉さんと島田さん、それからわたしも一緒になって車が見えなくなるまでお見送り。
「っしゃぁ〜〜〜!とりあえず今ので急ぎの作業は一段落だなっ!」
永倉さんが大きく腕を空に向かって伸ばす。
「キリがいいので十分ほど休憩にしますか。お薦めの大福があるんです!」
ホクホク顔の島田さん。
「じゃあ、あったかいお茶でも淹れましょうか」
二人を見上げて話していると、ショールームから原田さんが出てきてわたしたち三人に近付いてきた。
「歓談中わりぃな。苗字、今から超お得意様の近藤さんとこに車の引き取りに行くんだが、帰りの足、頼めるか?今ショールーム源さんだけでよ。これから源さんの客が来るらしくてはずせねぇってゆーからよ」
「なんだよ左之!名前ちゃん連れ出して二人でドライブかよっ!」
頭を掻きながら説明する原田さんに永倉さんが両手を拳にして食って掛かる。
すかさず島田さんも原田さんに
「引き取りでしたら私がお供しますよ。時間も少し空きますし」と立候補する。
だけど原田さんは島田さんの申し出をやんわりと断った。
「ありがとよ島田さん。だが今回は近藤さんたってのご指名なんだよ。新しく入った受付の電話対応が丁寧で大層気に入ったらしくてな。一度直接会ってみたいとのご要望なんだよ」
そう言うとにやっとお色気たっぷりの笑みを浮かべてわたしの頭に手を置いた。
「そういう事だから、わりいな」
頭に置いた手を肩に乗せて原田さんと共に廻れ右してショールームに引き返す。
後ろで永倉さんが『セク原田〜〜〜〜〜!』とギャンギャン叫んでいた。
島田さんの大福…。帰ってくるまで残ってるかな…。
ちょっと残念な気持ちもあったけど、
わたしも電話でしか話したことないけれど、とても人柄の良さそうな近藤さまに会えるとなって、ワクワクしながら免許証を持って原田さんと一緒にデモカーに乗り込んだ。
「わりぃな苗字。これからあいつらと3時のおやつタイムだったんだろ?」
ハンドルを握りながら横目で原田さんが話し出す。
「ふふっ。3時のおやつって!保育園みたいじゃないですか。大丈夫です、気にしなでください。わたしも近藤さまに会えるの楽しみですし!」
ウキウキしながら答えると原田さんもニコニコ前を見て車を発進させ駐車場から出る。
「近藤さんはホントいい人だからな。オレも前から思っていたが、お前の電話対応とか、接客対応はホント丁寧だし人当たりいいから。近藤さんに気に入られるのもうなずける」
原田さんにべた褒めされてなんだか気恥ずかしい。
「そんなに褒められると、なんだか照れますね〜…」
テレテレしてるわたしを見てフッと笑う原田さん。
「照れんなよ。ホントにお前はよくやってるよ。しかし近藤さんがご指名するなんてよっぽどだな…。いつもだったら代車用意して引き取りにいくから俺一人で事が済むってのに。今回は代車なしで返しは近藤さんがショールームに取りに来てくれるって…。そん時までガマンできないのかねぇ。よほど苗字に早く会いたいと思ったんだろうな」
やるなぁ、お前と言って右手を伸ばしてわたしの頭をぽんぽんたたく。
「もぉ、原田さん!ぽんぽんやめてくださいよ!ほら!信号赤!停まってくださぃっ!」
恥ずかしくなって原田さんの手を払って信号を指す。
「ハイハイ。お前は飽きねえな」
微笑みながら見つめてくる原田さんの方を見れずに引き続きテレテレな私。
どうもこの人のお色気オーラは苦手っぽい。うまくあしらえるように精進しなくっちゃ!