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□トレーニング
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―コンコン


「…ヒョン、起きてますか?」




真夜中に、小さな音と小さな声で、君はその来訪を告げた。




「、キュヒョナ? 起きてるよ」



眠れなくて、ベッドの上で、
なんとなく部屋の隅の間接照明を見つめていた僕は、その声にすぐ返事をする。



けれどその後、少しの静寂が僕らを包んだ。




「…入ってもいいですか?」




入ればいいじゃないかって、
今度はすぐに口には出せなかった。


キュヒョナの葛藤が、ドア越しに伝わってきたから。




これまでとは違って、
同じ空間に居るために「許可」を得る必要がある。


たったそれだけが、酷く重い。




「…いいよ。入って」




…ガチャ


遠慮がちにドアが開かれ、入ってきたキュヒョナは…






…なんて顔してるんだよ…






僕はキュヒョナの元に駆け寄り、彼を抱きしめた。


右手を君の肩に置き、左手で強く首を引けば、僕より高い所にある頭が、僕の頭の横まで降りてくる。



「……」



君は少しためらった後、僕の肩に顔をうずめ、背中に手を回して抱きしめ返してくれた。





君の体温
君の匂い
君の鼓動を感じる。






時が止まったみたいに、僕らは強く抱きしめあった。






このまま、形がなくなって、

「二人」じゃなくて、
「一つ」のただの塊になってしまえれば…







君の鼓動が落ち着いてきたのが分かって、僕は、僕の腕からキュヒョナを解いた。



「キュヒョナ」



僕は君の顔を見る。



「明日、また会おうね」



君が僕の顔を見る。






「…ヒョン、おやすみなさい」



「おやすみ、キュヒョナ」






君がこの部屋から一歩足を踏み出し、僕は静かにドアを閉めた。
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