books

□挨拶
1ページ/2ページ





「ただいま」


「おかえりー、って僕もだけど。
やっと帰ってこられたねー」




律儀に、誰もいない部屋に挨拶をしながら入る君。



僕が部屋を出るときは一人だった。
君は他のスケジュールで先に出ていたから。


その後、僕をはじめ、メンバー皆が合流してのスケジュールが終わり、
今、二人で一緒に部屋へ帰ってきたところ。





真夜中の帰宅。


外気はすっかり冬だと主張している。


真っ暗な部屋に、僕が先に入って明かりを灯し、君が暖房を入れた。




それぞれのベッドの脇に荷物を下ろしたところで、
君が僕を呼んだ。


手招きされて、そっちに行くと、
二人しかいないのに何故か耳打ちされた。




「…なんかバカっぽいよ、それ」


僕の言葉は想定済みらしく、
悪戯を思いついた子供みたいな顔で、背中を押してくる。



それがあまりに楽しげな様子だったから、なんだか僕も、素直にその悪戯に乗っかる気になった。



下ろしたばかりの荷物を持って、ドアの方へ向かう。




「…いってきます」


「いってらっしゃーい」




僕は部屋を出た。



そして、出るなり、
今閉めたばかりのドアをまた開けた。



「ただいまー…」





ほんの数秒だったはずなのに、
君はさっきとは違い、自分のデスクの前に座っていた。



いつも僕が帰ってきて、一番よく目にする光景を再現している。



即席だからパソコンのモニターは真っ暗なままだが、
ゲームをやっている状態の設定から、君は椅子を回転させて、僕の方に向き直った。




「おかえりなさい、ソンミナ」




笑顔で君が両手を広げるから、


僕はその場に荷物を落とし、君の腕の中へと惹き込まれていく。





君の体温に触れ、部屋と君の匂いを一緒に吸い込んだ瞬間、
「帰ってきた」と、強く感じた。




「…ただいま、キュヒョナ」








『“いってきます”と“ただいま”、


ヒョンの方が一回少ないから、


今、俺に言ってください』






End.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ