短編

□僕だけのきみ
1ページ/1ページ


僕だけのきみ



「ジョンヒョンさーん、ちょっと目線くださいよー」
「んー」

他人行儀なようで、なんとなく馴れ馴れしい響きに違和感を感じながらも
俺はさっきからカメラを構えるヌナに生返事をしながら、カメラマンの卵である彼女の予備のカメラをいじくり回していた
今日はSHINeeの雑誌のグラビアの撮影のなか、俺は一人ソファで休憩中

俺たちSHINee専属カメラマンのアシスタントをしているヌナは今日はオフショット撮影を任されたとかとかで張り切っている
まぁ、張り切る気持ちはわかるけど、なんだか今日は空回りしてるよ?ヌナ・・・
そんな事を思いつつ気の抜けた表情をしているオレに指摘してくる

「一応オフショットとは言っても、そこまで間の抜けたような顔しないでよ」
「ヲヲヲ」

ヌナはいつにも増して真剣な表情で、でも今日はなんだか表情が硬い
普段だったらもっと活き活きしていて、キラキラしていて見てるこっちが笑顔になっちゃうような
一生懸命で、でもとても楽しそうで、皆その笑顔に惹きつけられてる
降って湧いた初めての仕事に緊張してるんだろうけど
今のヌナの表情は全然魅力的じゃない
そんな風に思えちゃうのだって、もっと素敵な表情をオレは知ってるからだ
折角初めてヌナに撮影してもらえるチャンスではあるのだが
オレは微かな違和感を感じていたんだ

「撮りますよー」
「撮るよー」

今の表情撮って見せてやりたいよ・・・

ヌナの言葉をオウム返しにケタケタと笑いながらオレはシャッターをきる
そんなオレに呆れながらもカメラを向けてくるヌナ
健気だなぁ
お互いにカメラを構えながら写真を撮りあうようななんとも不思議な光景だ
撮られる側であるはずのオレは完璧に本来の目的を放棄していた

他のメンバーといえばオンユ、キー、テミンはセットで絶賛本番撮影中
ミノは衣装を着替えに行っている
撮影スタジオのセット脇に備え付けられた待機用のソファにはオレ一人だけだった

「テミナー!!キボムー!ヒョンー!」

オレはフィルムチェンジの合間を見計らいセットでポーズを決めるメンバーに手を振りカメラを向ける
ヌナはどうしたらいつもみたいに笑ってくれるだろう・・・

「カッコよく撮れたー?」
「バッチシ!!さすが俺」

茶化すキーに、グッと親指を突き立てる
そんなやりとりをして、ふとヌナ方を見ると
今日一日ずっと見たかったヌナの柔らかい表情
オレの大好きなヌナが微笑んでいた

「いただき!!」

その表情を咄嗟にカメラを向けシャッターをきる

「ちょっと!ジョンヒョン!?」
「うん!超カワイイ!!」

撮った画像を確認してみても、うん!やっぱりこっちの方が断然魅力的

「ヌナさぁ、もっと力抜いたら?」

その方が可愛いよ?と、くるりと振り向きヌナに微笑みかける
ちょっとだけ満足したような気持ちと
でも少し悔しい気持ち
だって先のは、俺だけに向けられた笑顔じゃなかったから・・・

「ちょ、今の!もう一回!!お願いします!」

またヌナの表情が硬くなる
なんだよ
そうやってまた元に戻っちゃうわけね

「やーだよー!」
「なんでよーケチー」

少しだけ意地悪く返してやると、膨れたように悪態をつく
まぁ、そういうところも嫌いじゃないけどね
寧ろ、好き・・・

「一番好きな表情なんだけどなぁ・・・」

ヌナが残念そうにポソリと呟いたその言葉に

あぁ
またそうやって・・・

「ヌナがもっと笑ってくれたらいいんだけどね〜」
「私は関係ないでしょ」

無意識にオレにばっかり意識させて

「関係あるの!」

半ば自棄になって言葉を投げつける
オレばっかり意識してるみたいで、やっぱり悔しいな

「早く気づけ!このパボ!!」

そう言ってヌナのおデコにチョップをするフリをする

「ちょ!パボとはなによー?」

オレの攻撃を避けるように顔を逸らした瞬間



チュッ



してやったり

イタズラのように、まるで盗むように、唇を奪ってやった
今のヌナの表情は初めてだけど中々に魅力的だ

「あ、その表情もいいね」

だって
そんな表情、オレにしか見せたことないでしょ?
そう思ったら自然と笑みが込み上げてきて

「今の・・・」
「ん?」

すると、ボーゼンとした表情のヌナが次の瞬間放った一言に

「今の表情!!もう一回下さい!!」

やっぱりオレは、敵わないなと思った

「このパーボ!!」




僕だけに見せるきみの表情を
独り占めしたい・・・




END

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ