社会人パラレル

□2-A
1ページ/5ページ

ビビが友人達とよく来るというこの店は、カウンター席の他にはテーブル席が4卓だけという狭くて小さな店だった。
古い印象はあるものの決して汚いわけではなく、木のカウンターもテーブルもよく磨きこまれているのがわかる。
店員は、40歳前後の店長とアルバイトらしき若い男が1人のようだ。

威勢のいい、けれど煩くはない「いらっしゃい」の声に迎えられて、まだ空いていた奥のカウンター席に腰を下ろす。
そのまま、とりあえずゾロは生大、ビビは生中を注文した。

ゾロははグルリと店内を見回し、へえ、と声をあげた。

「良さそうな店だな」
「でしょう?ここね、日本酒の種類が多いのよ」
「いいねえ」

シンプルなドリンクメニューを手渡し、ビビはそれを真剣に眺め始めたゾロの横顔を見上げる。
よく日に焼けた薄い頬。
顎のラインと筋ばった太い首。
ふと触ってみたい衝動が湧いたが、無理に視線を逸らし声を掛ける。

「職場の近くにあるランチによく行くお店にね、食前酒を出してくれるところがあるの」
「…?」
「お店の人は『食前酒です』とだけ言ってくれるものだから、私は冷酒かしらワインかしらでも美味しいわって思いながらいつも飲んでたんだけど」
「……冷酒とワインって全く違うじゃねえか」
「うん。でもね、この間一緒に居た同僚が、『この梅酒美味しいよね』って言ったのよ」
「…………お前、酒飲む資格ねえよ」
「うん。その人にも同じこと言われた。でもね、お酒弱くはないのよ」
「……そうなのか?」
「そうなのよ」

弱くはないのよ、ビビがもう1度そう言ったところで店長がドンとジョッキを置いた。

「天吹の大吟醸、常温で出せる?」
「勿論。お兄さん酒好きだね」

年の割りに屈託のない笑顔を見せた店長は、暇だったら一緒に飲みたかったのになあ残念、と混雑する店内を見回して離れた。

「もう2杯目を頼んでおくの?」
「1杯目のビールなんて1分ももたねえよ」

ゾロは、目を丸くしたビビにジョッキを持たせるとガツンと合わせそのまま息も吐かずに大ジョッキのビールを喉に流し込んでしまった。
そこに妙に嬉しそうな顔をした店長が日本酒が入ったグラスと枡を差し出したため、早速口をつける。

その圧倒的な一連の流れにビビは、うっかりゾロのペースにつられないよう気を付けなければ、とゆっくりと自分のジョッキに口をつけた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ