社会人パラレル
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土曜日の地下鉄の最終電車。
日曜日以外、最終とは常に混んでいるものだが、その中でも金曜日と土曜日は酔っぱらい達のせいで朝のラッシュと変わらないくらいの乗車率になる。
仕事帰りのゾロは、車内の酒臭さと熱気にウンザリしながらドアに凭れていた。
クライアントの我が儘で仕事のスケジュールが大幅に狂い、休日出勤な上にこんな時間まで職場に缶詰め状態だったのだ。
本当だったら自分も今頃はアパートで酒を飲みながらグダグダしていたはずなのに、何が悲しくて素面で終電になど乗らなければならないのか。
まあ明日は休みがとれそうだし、持ち帰りの仕事もない。
今夜は深夜番組でも見ながら朝方まで飲むか…。
無理矢理そう納得することにした。
車内は相変わらず寿司詰め状態で、酔っぱらい達の話し声が溢れている。
ゾロは溜め息と共に車内をグルリと見回した。
と。
その時になって自分の隣に立っている女の頭がグラグラと揺れていることに気付いた。
立ちながら寝てるのか?
ただの興味で無理矢理腰を屈めて見下ろすと、女は青白い顔をして目を閉じている。
けれど寝ているわけではなさそうだ。
こいつ、吐くぞ。
ゾロは顔を顰めてそう思う。
終電だけに途中下車して休むわけにもいかないのかもしれないが、こんな青を通り越して白い顔で、1人帰らずともいいだろうに。
ていうか吐いたら俺に直撃じゃねえか。
そんなことを思いながら不安定に揺れている頭を眺めていると。
自分の鞄の中に今朝買ったまま口をつけていないミネラルウォーターがあることを思い出した。
余計な世話かと少し考えたが、車内アナウンスが丁度ゾロの降りる駅に到着する旨を伝えだしたのを耳にし、水を渡してすぐ電車を降りればいいかと思い直す。
足下に置いていた鞄を持ち上げ水のボトルを取り出すと、女の目の前に差し出した。
「これ飲んどけ」
「…え?」
自分が話しかけられたと気付いた女が、トロリとした目でゾロを見上げた。
途端、顔をしかめる。
女は両手で口元を押さえ、ゾロを見上げたまま目にジワジワと涙を浮かべた。
ゾロは涙の意味を把握しかねて(後ろめたいことなど何もないにも関わらず)女の泣き顔を他に見られないよう若干女の方に身を屈ませて低く尋ねる。
「どうした」
女は相変わらずゾロに訴えるように潤んだ目をしたまま、電車のドアが開くと同時に呻くように声を発した。
「吐きそう…っ!」
「やっぱりか!ちょっと待て!!我慢しろよ!!?」
ゾロは言うが早いか女を担ぎ上げ電車を飛び降りる。
女は吐くのを堪えるのに必死なのか、いきなり担ぎ上げられたことに抵抗する素振りはない。
ゾロもゾロで驚いてこちらに顔を向ける周りの目を気にすることなく、大股で男子トイレに駆け込み個室に女を押し込め外から勢いよくドアを閉めた。
恥じらいもへったくれもない声?音?が聞こえてきたのはその直後。
それを確認し、ゾロは安堵の溜め息を長く吐いた。